
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:坂道に高所作業車を止める場合、輪止め、駐車ブレーキ、ギア位置、停車方向の確認が抜けると、車両の逸走が死亡事故につながるおそれがあります。
・お読みいただきたい方:高所作業車、工事車両、作業車を現場で使う建設会社の経営者、工事部門責任者、安全管理担当者。
・リスクへの備え:坂道駐車時の確認手順、輪止めの設置位置、駐車ブレーキ確認、逸走時に身体で止めに行かない教育を、作業手順書と朝礼で具体化することです。
・この記事で分かること:高所作業車の逸走事故を防ぐ5つの確認点と、死亡事故後に保険で確認すべき範囲です。
坂道駐車が死亡事故に変わる理由
高所作業車は、作業床の高さだけでなく、車両そのものが大きな事故エネルギーを持つ機械です。平坦な場所では問題になりにくい停車方法でも、坂道ではわずかな確認不足が車両の逸走につながります。
厚生労働省の労働災害事例では、個人住宅への光ファイバーケーブル引込み工事で、坂道に駐車していた高所作業車が動き出し、止めようとした作業者が車両ドアと車体の間にはさまれて死亡した事例が示されています。原因として、サイドブレーキが確実に掛かっていなかったこと、ギアがニュートラルのままだったこと、坂道駐車時の輪止めやブレーキ、ギア確認を盛り込んだ作業手順書がなかったことが挙げられています。
この事故を一般化すると、問題は「高所作業車を使ったこと」だけではありません。坂道で一時的に止める場面、作業を終えて次の工程へ移る場面、運転担当者が別作業に移る場面で、車両を完全に止める確認が会社の標準手順になっていなかったことが本質です。
特に経営者が注意すべきなのは、輪止めを「現場判断」に任せている会社ほど、確認漏れが個人責任に見えやすい点です。実際には、誰が、いつ、どのタイヤに、どの向きで輪止めを置き、誰がブレーキとギアを確認するのかまで決めていなければ、事故後に安全管理体制そのものを問われる可能性があります。
事故を防ぐ5つの確認
坂道での高所作業車の逸走を防ぐには、「注意しましょう」では足りません。経営者側で確認項目を固定し、現場責任者が毎回同じ基準で判断できる形にしておく必要があります。厚生労働省の事例でも、坂道に駐車する場合は、輪止めを使用し、サイドブレーキを確実に掛け、ギアを坂の勾配と逆に入れておくことが対策として示されています。
・停車方向:傾斜地では車両の向き、作業位置、坂下方向を確認し、取扱説明書や社内基準に反する置き方をしない。
・制動確認:駐車ブレーキを掛けたあと、フットブレーキを離しても車両が動かないことを確認する。
・輪止め確認:車両の取扱説明書や社内基準に従い、坂下側に効く位置へ輪止めを確実に設置する。
・ギア確認:マニュアル車、オートマ車それぞれで坂道駐車時のギア位置を決め、ニュートラル放置を防ぐ。
・逸走時対応:車両が動き出した場合、身体で止めに行かないことを教育し、緊急時の退避行動を決める。
ここで重要なのは、運転資格の有無だけで安全管理を終わらせないことです。高所作業車の運転には、作業床の高さに応じて技能講習または特別教育が関係します(10m以上は運転技能講習、10m未満は特別教育)。ただし、資格があることと、坂道駐車時の社内手順が実行されることは別問題です。
作業手順書には、作業開始前だけでなく、作業終了後、移動前、輪止めを外す前、ジャッキ格納時にタイヤが接地した後の確認も含める必要があります。なお、労働安全衛生規則第194条の13では、高所作業車の運転者が運転位置を離れる際に、ブレーキを確実に掛けるなど逸走を防止する措置を講じることが事業者の義務として規定されています。作業手順書の整備は「努力」ではなく「義務の履行」です。事故は「作業中」だけでなく、「作業が終わった直後」にも起きます。経営者は、作業前点検表だけでなく、作業の切れ目に発生する確認漏れを管理対象に入れるべきです。
保険で見るべき自己負担
高所作業車の逸走で従業員が死亡した場合、まず労災保険の対象となる可能性があります。そのうえで、会社としては任意労災、使用者賠償責任補償、自動車保険、第三者賠償責任保険などを確認する必要があります。どの保険で何を確認するかは、事故状況、被災者の立場、車両の所有・使用関係、契約内容、特約、支払限度額、免責金額によって変わります。
任意労災では、死亡補償保険金、後遺障害補償保険金、入院・手術・通院補償保険金などの定額補償が設定されている場合があります。使用者賠償責任補償では、会社が法律上の損害賠償責任を負う場合の損害賠償金や争訟費用などが対象となり得ますが、契約内容・特約・事故状況による確認が必要です。
高所作業車が自動車保険の対象車両である場合は、対人賠償、対物賠償、人身傷害、搭乗者傷害、車両保険などの有無を確認します。ただし、業務中の従業員が被災した事故では、自動車保険の各補償が当然に対象となるとは限りません。被災者が従業員か第三者か、運転者・同乗者・作業者のどの立場か、業務従事中か、契約上の免責規定や特約があるかによって取扱いが変わります。したがって、業務災害としての労災・任意労災・使用者賠償責任補償と、自動車事故としての自動車保険を分けて確認する必要があります。
保険で必ずしも対象とならない費用もあります。たとえば、事故後の工期遅延に伴う追加費用、売上減少、元請からの信用低下、行政対応に要する社内工数、再発防止教育の費用、ブランド毀損対応費用などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。補償対象は契約内容や特約により異なるため、事故が起きる前に証券単位で確認しておくべきです。
この事故は、坂道駐車時の確認不足が、死亡事故と会社の安全管理責任に直結することを意味します。
実務上は、輪止め、駐車ブレーキ、ギア位置を「現場の注意」ではなく、会社の標準手順として固定できているかが問われます。
この種の事故では、被災者補償だけでなく、会社がどの範囲まで法律上の損害賠償責任を負うか、どの費用が自己負担になるかを分けて確認する必要があります。
弊社は、高所作業車を使う会社では、任意労災と使用者賠償責任補償の有無だけでなく、死亡時の支払限度額、車両事故との関係、免責金額まで証券単位で確認すべきだと考えます。
実務上は、保険の見直しより先に、坂道駐車の作業手順書とチェック表を整備し、その手順が現場で実行されているかを確認することが欠かせません。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
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よくある質問(FAQ)
A. 足りるとは限りません。高所作業車が自動車保険の対象車両であっても、業務中の従業員死亡事故では、労災保険、任意労災、使用者賠償責任補償、自動車保険を分けて確認する必要があります。対象となる補償や支払可否は、契約内容・特約・事故状況によります。
A. 輪止め未実施だけで一律に判断するものではありません。ただし、重大な安全管理上の問題として、事故原因、会社の管理責任、損害賠償責任の有無、保険会社の確認事項に影響する可能性があります。最終的な取扱いは契約内容・特約・事故状況によります。
A. 坂道駐車時の作業手順書です。輪止め、駐車ブレーキ、ギア位置、停車方向、輪止めを外す順番、逸走時に身体で止めに行かないことまで明文化し、朝礼や安全教育で繰り返し確認する必要があります。特に、輪止めを外す前に運転者が乗車し、駐車ブレーキ、フットブレーキ、ギア位置を確認してから外す手順にしておくことが重要です。あわせて、任意労災、使用者賠償責任補償、自動車保険の支払限度額と免責金額を確認してください。
参考
厚生労働省 職場のあんぜんサイト『労働災害事例 坂道に止めていた高所作業車が動き出して電柱にぶつかり、止めようとした作業者がドアと車体にはさまれ死亡』(2026年7月閲覧)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101240
厚生労働省 職場のあんぜんサイト『作業計画』(2026年7月閲覧)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo18_1.html
厚生労働省『外国人労働者に対する安全衛生教育教材作成事業(建設業) 電気通信業務 高所作業車』(2026年7月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/04telecommunication3_vehicle_jp.pdf
最終確認日
2026年07月04日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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