
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:内装・浴室・小部屋などの改修工事では、塗料稀釈シンナー、有機溶剤を含む剥離剤、接着剤、防水材などを使う作業で、SDSやラベル確認、換気、呼吸用保護具、作業手順が省略されると、頭痛、めまい、ふらつきなどの体調不良から労災事故につながるおそれがあります。
・お読みいただきたい方:塗装工事、内装改修工事、防水工事、住宅改修工事で、現場の段取りや作業員への指示を担う現場責任者の方
・リスクへの備え:作業前に使用材料の成分確認、換気方法、呼吸用保護具、休憩・退避基準、異常時の連絡手順を決め、作業中に守られているかを確認してください。
・この記事で分かること:塗装剥離作業で見落としやすい3つのリスクと、事故後に保険で確認すべき範囲
短時間だから大丈夫が危ない
住宅の浴室、洗面所、トイレ、階段室、収納内などの改修工事では、作業場所が狭く、窓や出入口も限られることがあります。こうした場所で古い塗膜の剥離、接着剤の除去、防水材や塗料の使用を行うと、作業者の顔の近くに蒸気が滞留しやすくなります。
現場責任者が注意したいのは、「短時間だから大丈夫」「少量だから大丈夫」「一人作業だから段取りを簡略化してよい」という判断です。厚生労働省のヒヤリ・ハット事例では、住宅の風呂場改修工事で古い塗装面を剥離する際、塗料稀釈シンナー、防毒マスク、排風機付き換気ダクトなどを持参していたものの、換気ダクトを取り付けず、防毒マスクも使用せずに作業を始め、30分ほどで頭痛が出た事例が紹介されています。
この事例で重要なのは、換気ダクトや防毒マスクを持参していたにもかかわらず、短時間だからと使用を省略した点です。つまり、道具があるかどうかではなく、作業前に決めた手順を実際に守る運用が問われます。
この種の事故は、転落や挟まれ事故のように見た目の危険が分かりやすいわけではありません。においに慣れる、作業を急ぐ、休憩を後回しにする、といった現場の判断が重なると、体調異常に気づくのが遅れます。特に浴室のような閉鎖的な場所では、換気扇を回しているだけでは十分とは限りません。使用材料、作業場所、作業時間、換気経路をセットで確認する必要があります。
作業前に決めるべき確認手順
塗料稀釈シンナー、有機溶剤を含む剥離剤、接着剤、防水材などを使う作業では、作業開始後に「においが強ければ窓を開ける」「気分が悪くなったら休む」と決めるのでは遅い場合があります。現場責任者は、作業前の段階で、誰が、何を、どの順番で確認するかを明確にしておくべきです。
・使用する剥離剤、塗料、接着剤、防水材のSDSやラベルを確認する
・作業場所が屋内、浴室、小部屋、地下、ピットなど通風が不十分な場所に当たらないか確認する
・窓、出入口、送風機、排気ダクトなどで空気の入口と出口を確保する
・作業内容に応じた呼吸用保護具を準備し、吸収缶の種類、使用期限、装着状態を確認する
・頭痛、めまい、吐き気、ふらつきなどが出た場合の中止、退避、報告、受診の基準を決める
・一人作業にしない、または一定時間ごとの声かけ・確認方法を決める
有機溶剤中毒予防規則では、屋内作業場等で一定の有機溶剤業務を行わせる場合、発散源を密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置などが求められる場面があります。また、作業内容によっては送気マスク、有機ガス用防毒マスク、有機ガス用の防毒機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具の使用が求められる場合もあります。
ただし、すべての塗装作業や剥離作業に同じ装備が一律に必要という意味ではありません。剥離剤には有機溶剤系以外の製品もあり、使用材料の成分、溶剤の種類、作業場所、作業方法、使用量、作業時間、換気条件によって確認すべき内容が変わります。なお、臨時作業、短時間作業、壁・床・天井作業、作業場所などによって適用関係や必要な措置は変わるため、個別の現場ではSDS、作業条件、法令上の対象範囲を確認する必要があります。
労災後に会社負担が残るケース
塗装剥離作業中に体調不良や中毒症状が発生した場合、まず確認すべきは、労災事故としての初期対応、受診、報告、作業中止、再発防止です。現場責任者は、本人の体調確認だけでなく、同じ場所で作業していた他の作業員、下請作業員、一人親方への影響も確認する必要があります。
保険面では、業務中のケガや疾病について、政府労災とは別に任意労災で死亡、後遺障害、入院、手術、通院補償保険金などを確認することがあります。会社の安全配慮義務違反が問われるような場合には、使用者賠償責任補償の対象となるかを確認する場面もあります。ただし、補償対象は契約内容、特約、被保険者の範囲、事故状況、疾病と業務との因果関係により異なります。
注意したいのは、事故が起きた後のすべての費用が保険で当然に対象になるわけではない点です。工期遅延に伴う追加費用、代替要員の手配費用、元請や発注者への説明対応費用、行政対応に伴う社内工数、信用低下による売上減少などは、任意労災や使用者賠償責任補償で必ず対象となるものではありません。現場責任者の段階で、作業手順、保護具の使用記録、換気の実施状況、作業員への指示内容を残しておくことが、事故後の確認にもつながります。
この塗装剥離作業のリスクは、危険が見えにくい作業ほど段取りの省略が事故につながることを意味します。
実務上は、作業者本人の注意力ではなく、現場責任者が作業前にSDS、換気、保護具、退避基準を確認していたかが問われます。
この事故後対応では、任意労災や使用者賠償責任補償の確認だけでなく、作業手順と指示記録が残っているかも重要です。
弊社は、内装・改修工事の労災対策では、保険の加入有無だけでなく、狭い場所で有機溶剤を含む材料を使う作業を事前に洗い出す運用が欠かせないと考えます。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
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よくある質問(FAQ)
A1. 必要です。少量でも、浴室や小部屋など通風が不十分な場所では蒸気がこもるおそれがあります。使用量だけでなく、作業場所、作業時間、換気経路、使用材料の成分を合わせて確認する必要があります。
A2. 代用できるとは限りません。粉じん対策と有機ガス対策では、必要な保護具が異なります。使用材料のSDSやラベルを確認し、有機ガス用防毒マスク、吸収缶の種類、使用期限、装着状態を確認してください。
A3. 不要と決めつけるのは危険です。頭痛、めまい、吐き気、ふらつきなどが出た場合は、作業を中止し、退避、体調確認、必要に応じた受診を優先します。労災該当性や保険の対象可否は、事故状況、業務との関係、契約内容により判断が分かれます。
参考
厚生労働省 職場のあんぜんサイト『ヒヤリ・ハット事例 住宅の風呂場の改修工事で古い塗装面を剥離作業中、頭が痛くなりフラフラした』(2026年7月閲覧)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/hiy_0312.html
厚生労働省『有機溶剤中毒予防規則』(2026年7月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74090000&dataType=0&pageNo=1
最終確認日
2026年07月02日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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