
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
墜落防止は、現場の注意だけでは不十分です。会社として点検の流れや足場の使い方を先に決めておくことが大切です。
・お読みいただきたい方
建設会社の経営者、役員、工事責任者など、現場のルールを決める立場の方に向けた内容です。
・リスクへの備え
法令上の基本は、作業開始前点検、組立て等後点検、異常があったときの補修、記録の保存です。記録は、足場を使う作業が終わるまで残します。そのうえで、手すり先行工法のような、より安全なやり方も取り入れると、事故を防ぎやすくなります。
・この記事で分かること
墜落防止を社内ルールに落とし込む4つの考え方。
なぜ墜落防止を優先して考えるのか
厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況では、全業種の事故の型別死亡者数で「墜落・転落」が188人でした。
一方、業種別の死亡者数では、建設業が232人で最も多くなっています。
この2つは、似ているようで意味が違います。
188人は、「どんな事故で亡くなる人が多いか」を示す数字です。
232人は、「どの業種で死亡災害が多いか」を示す数字です。
つまり、建設業は死亡災害そのものが多く、その中でも墜落・転落対策が重要だとわかります。
また、厚生労働省の制度改正ページでは、「建設業では今なお年間100人程度の労働者が墜落・転落災害によって死亡している」と説明されています。
これは令和6年の確定統計をそのまま言い換えたものではありません。建設業で墜落・転落対策が、長く重要な課題であることを示す説明です。
こうした資料を合わせて見ると、足場作業、外まわり作業、屋根上作業がある会社ほど、墜落防止を優先して考える必要があると整理しやすくなります。
さらに、厚生労働省の足場点検資料では、足場での通常作業中に起きた死亡災害の多くが、手すりや中さんなどがない状態で起きていました。
法令で求められる点検が行われていなかった事例も確認されています。
ここから見えてくるのは、事故は「気をつける」だけでは防ぎきれないということです。
危ない状態を残さない仕組みが必要です。
法令を土台にして、安全な運用へ広げる4つの考え方
1つ目は、法令上の義務である作業開始前点検です。
足場で作業をする日は、作業を始める前に、墜落を防ぐ設備に外れや落下がないかを点検しなければなりません。異常があれば、すぐに直す必要があります。
社内ルールでは、「点検が終わるまで作業を始めない」と決めておくと、運用しやすくなります。
2つ目は、法令上の義務である組立て等後点検です。
足場を組み立てたあと、一部を外したあと、変更したあと、強風、大雨、大雪、地震のあとには、点検と記録保存が必要になります。
ここで大切なのは、いつも同じ立場の人が責任を負うわけではないことです。
事業者が行う場合もあれば、注文者に求められる場合もあります。
そのため、誰が設置した足場か、誰に使わせる足場か、どの場面の点検かを分けて考える必要があります。
3つ目は、通達やガイドラインで示されているより安全な足場の考え方です。
手すり先行工法は、その代表例です。
これは、手すりなどを先に設けて、危ない場所に出る前から落ちにくい状態をつくる考え方です。
ここで注意したいのは、手すり先行工法は法令本文そのものではない、という点です。
法令を守ったうえで、さらに安全性を高めるための考え方として捉えると、わかりやすくなります。
4つ目は、社内での役割分担の明確化です。
点検する人、補修が必要か判断する人、作業を止める人、記録を保管する人を決めておくと、現場で迷いが減ります。
たとえば、現場所長、職長、安全担当などに役割を分けておく方法があります。
ここまで決めておくと、「足場を変えたら点検する」「変更内容が共有されていなければ作業を始めない」「記録が残るまで完了にしない」という流れをつくりやすくなります。
現場で起きやすい失敗を、経営の目線で見直す
たとえば、現場で「少しだけだから」と言って、手すりを外したまま作業を始めたとします。
このときの問題は、手すりを外した人の注意不足だけではありません。
外したあとに誰が確認するのか。
元に戻したかを誰が見るのか。
戻っていなければ、誰が作業を止めるのか。
この流れが決まっていないことが、本当の問題です。
つまり大切なのは、危ない状態をそのままにしないことです。
人に気をつけてもらうだけではなく、危ない状態が残らない流れを会社として決めておく必要があります。
もう一つ気をつけたいのは、「保護具があるから大丈夫」と考えてしまうことです。
保護具は大切です。
ただ、それだけでは十分とはいえません。
その前に、足場や手すりを整えて、落ちにくい状態を先につくることが基本です。
会社として先に環境を整えるほうが、事故を防ぎやすくなります。
また、実務では元請が現場全体をまとめる場面が多い一方で、法令上の義務主体は「事業者」「注文者」など、場面によって変わります。
そのため、元請として全体を見る立場と、法令上の義務を負う立場は分けて整理する必要があります。
社内ルールでは、
「誰が設置した足場か」
「誰に使わせるのか」
「誰が点検するのか」
「誰が記録を持つのか」
まで決めておくことが大切です。
経営者や役員の立場で見ると、墜落防止は現場だけの問題ではありません。
工程の組み方、協力会社との取り決め、足場変更の承認、点検記録の残し方まで含めて、会社の管理のしかたが問われます。
現場に注意を求める前に、危ない状態が残らない流れを会社として決めておくことが出発点です。
参考
・厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html
・厚生労働省「足場からの墜落防止対策を強化します。~令和5年10月1日から順次施行~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40439.html
・厚生労働省「足場の安全点検について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000972012.pdf
・厚生労働省「手すり先行工法等に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40003.html
よくある質問(FAQ)
A. まず決めたいのは、法令で求められる点検が確実に回る仕組みです。作業開始前点検、組立て等後点検、異常時の補修、記録保存を、誰が行うかまで決めておくことが大切です。
A. 手すり先行工法は、法令本文そのものではありません。厚生労働省の通達やガイドラインで示されているより安全な進め方です。法令を守ったうえで、安全性を高める方法として考えるのが適切です。
A. そうとは限りません。実務では元請が全体をまとめることが多いですが、法令上の義務主体は場面によって異なります。元請としての立場と、法令上の義務は分けて考える必要があります。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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