過去の工事の漏水、誰の負担?

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施工不備と保険の境目

過去の工事の漏水、誰の負担?

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:過去の設備工事に施工不備があると、引渡し後でも漏水事故として発覚し、賠償交渉や自己負担につながる場合があります。
    ・お読みいただきたい方:設備工事、配管工事、水道施設工事、建築工事を請け負う建設会社の経営者です。
    ・リスクへの備え:施工記録、写真、仕様確認、引渡し後の不具合対応ルール、賠償責任保険の完成・引渡し後事故に関する補償を確認してください。
    ・この記事で分かること:引渡し後の漏水事故で問題になりやすい3つの負担、施工管理で残すべき記録、保険で確認すべき補償範囲です。

  • なぜ過去工事が賠償問題になるのか

    設備工事や配管まわりの施工不備は、施工直後に発覚するとは限りません。建物の使用開始後、雨水や排水の流れ、設備の使用状況、点検時の発見などをきっかけに、漏水や周辺部分の損壊として表面化することがあります。

    このとき建設会社にとって重いのは、事故そのものよりも、原因特定と負担整理が一気に始まる点です。発注者、建物所有者、テナント、隣接先などから、修理費、内装復旧費、調査費、営業への影響などがまとめて問題にされることがあります。ただし、どこまでが法律上の損害賠償責任になるかは、契約内容、施工内容、事故状況、発見時期、契約不適合責任の整理によって変わります。

    民法上、請負契約では、仕事の目的物が契約内容に適合しているか、いわゆる契約不適合の問題が生じることがあります。もっとも、請求できる内容や期間、通知の要否、損害賠償の範囲は、契約内容、事故原因、発見時期、損害の広がり方によって変わります。

    国土交通省は、建設工事の請負契約で合意内容が不明確なままだと、後日の紛争原因になり得るとして、標準請負契約約款の活用を示しています。つまり、引渡し後の事故は「昔の工事だから関係ない」と切り離せるものではなく、契約書、施工記録、写真、検査記録が会社を守る材料になります。なお、国交省が勧告する標準請負契約約款では、契約不適合責任期間を引渡しから2年(設備機器等は1年)と定めており、自社の工事がどの期間内にあるかを確認しておく意味があります。

  • 後で説明できる施工管理

    漏水事故の再発防止では、現場の注意喚起だけでは不十分です。重要なのは、施工前、施工中、引渡し前のどこで確認すべきだったかを会社の手順に戻すことです。特に排水、配管、防水、貫通部、勾配、接続部、支持固定、部材選定は、完成後に見えなくなるため、写真と検査記録が残っていないと説明が難しくなります。

    下請や協力会社が関わる工事では、施工範囲、変更指示、是正対応の記録があいまいなままだと、事故後に責任分界の整理が難しくなります。建設業法令遵守の観点からも、契約内容や変更内容を記録に残し、口頭指示やあいまいな役割分担に頼らない管理が重要です。

    施工管理上、確認しておきたい実務項目は次の4つです。
    ・仕様書、図面、現場指示、変更指示の整合性
    ・隠ぺい部、接続部、排水経路、勾配確認の写真記録
    ・元請、下請、協力会社の施工範囲と責任分界
    ・引渡し前検査、不具合対応、是正完了の記録

    ここで注意したいのは、記録を残す目的は「責任逃れ」ではないという点です。記録がなければ、実際には施工上の問題がなかった場合でも、会社側が説明できず、交渉で不利になることがあります。逆に記録があれば、施工不備の有無、損害範囲、他工事や使用方法との関係を整理しやすくなります。

  • 保険で見る自己負担の境目

    引渡し後の漏水事故では、賠償責任保険のうち、いわゆる「生産物・完成作業危険」や「引渡し後の対人・対物事故」に関する補償が関係する場合があります。補償名や特約名は保険会社・商品によって異なるため、自社の保険証券では、完成・引渡し後の事故がどの補償で扱われるのかを確認する必要があります。

    たとえば、施工不備を原因として、施工対象以外の内装、設備、什器、階下テナントの財物などに損壊が生じた場合、法律上の損害賠償責任を前提に、損害賠償金や争訟費用などが検討対象になることがあります。ただし、施工対象そのものや自社が施工した部分のやり直し費用は、保険上の扱いが分かれやすいため、契約内容ごとの確認が必要です。

    一方で、仕事の目的物そのもの、施工した部分のやり直し費用、事故原因を調べるための費用、工期遅延に伴う追加費用、売上減少などは、対象・対象外が分かれやすい費用です。行政処分対応費用、ブランド毀損対応費用なども、賠償責任保険で当然に対象となるものではありません。補償対象は、契約内容、特約、支払限度額、免責金額、事故状況により異なるため、事故が起きる前に証券単位で確認する必要があります。

    特に設備工事では、漏水原因の調査費と復旧費の境目があいまいになりやすいです。調査のために壁や床を開口する費用、施工部分を交換する費用、周辺の損壊を直す費用が同時に発生するため、どの費用が賠償対象で、どの費用が自社負担になり得るのかを分けておくことが重要です。新築配管の漏水事故における負担調整については、別記事「新築配管漏水で負担調整がこじれる理由」でも整理しています。

    なお、新築住宅では、構造耐力上主要な部分や雨水の浸入を防止する部分について、住宅品質確保促進法(品確法)により引渡しから10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています。防水・屋根・外壁等に関わる工事では、この期間も念頭に置いた契約・保険設計の確認が必要です。

    執筆者の意見

    この引渡し後の漏水事故は、施工時の確認不足が長期間経過後に賠償交渉として戻ってくることを意味します。
    実務上は、事故後の保険対応だけでなく、施工範囲、下請範囲、検査記録、写真記録をどこまで会社として残していたかが問われます。
    弊社は、建設会社の保険設計では、支払限度額の大きさだけでなく、完成・引渡し後の事故、仕事の目的物、原因調査費用、免責金額の確認が欠かせないと考えます。
    実務上は、保険証券の確認とあわせて、過去工事の記録管理ルールを整えることが経営者に求められます。


    前田朗伸(まえだ あきのぶ)
    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント認定・最上位
    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上

    あわせて確認しておきたい記事

    「引渡し後の戸棚落下事故と負担整理」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-32/
    「ガス管工事の引火事故で見落としやすい自己負担」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-44/
    「標準約款改正と契約書見直し」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-45/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 引渡し後に発覚した漏水事故でも、建設会社の責任になりますか。

    A1. 可能性はあります。ただし、責任の有無は、施工内容、契約内容、事故原因、損害範囲、発見時期、契約不適合責任の整理によって変わります。契約不適合責任には通知期間などの整理も関係するため、発見時期と相手方からの通知時期も確認が必要です。古い工事だから一切関係ない、とは判断しない方が安全です。

    Q2. 賠償責任保険に入っていれば、漏水事故の費用はすべて対象になりますか。

    A2. すべてが対象になるとは限りません。完成・引渡し後の事故に関する補償が関係する場合はありますが、施工した部分のやり直し費用、原因調査費用、工期遅延による追加費用、売上減少などは契約内容や特約により扱いが異なります。補償名も保険会社・商品によって異なるため、証券での確認が必要です。

    Q3. 事故前後に経営者が確認すべきことは何ですか。

    A3. 事故前は、施工記録の保存ルール、下請との責任分界、引渡し前検査の記録、保険証券上の完成・引渡し後事故に関する補償、仕事の目的物に関する取扱い、原因調査費用の特約有無、支払限度額、免責金額を確認してください。事故後は、被害拡大防止、現場写真の保存、契約書・図面・検査記録の確認、請求内容の整理を行い、早めに保険会社または代理店へ事故報告することが重要です。

    参考

    e-Gov法令検索『民法』(2026年6月閲覧)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

    国土交通省『建設工事標準請負契約約款について』(2026年6月閲覧)
    https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000092.html

    国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン』(2026年6月閲覧)
    https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html

    最終確認日
    2026年06月25日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

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