
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
標準約款の改正後は、契約書ひな型だけでなく、見積書、請負代金内訳書、変更協議の申出方法、下請契約への展開まで一体で見直す必要があります。
・お読みいただきたい方
建設会社の経営者、役員、工事部門責任者、契約書ひな型や下請契約の管理を担う方です。
・リスクへの備え
請負代金内訳書に記載する項目、労務費・法定福利費・安全衛生経費・建退共掛金の明示方法、資材高騰時の契約変更協議、下請契約への反映手順を確認してください。
・この記事でわかること
4つの見直し順序。契約書ひな型、内訳書、変更協議、下請契約運用の直し方。
本記事は、2026年5月14日時点で確認できる国土交通省・中央建設業審議会の公表資料をもとに整理しています。今回の公共工事標準請負契約約款、民間建設工事標準請負契約約款(甲・乙)、建設工事標準下請契約約款の改正部分は、国土交通省・中央建設業審議会の資料において、令和7年12月12日から施行するとされています。本記事の基準日時点では、すでに施行済みです。
第三次・担い手3法とは、建設業法、公共工事品確法、入契法を一体的に見直した法改正を指します。今後、省令、ガイドライン、運用資料等の更新により、実務対応が変わる可能性があります。本記事では、公共工事標準請負契約約款、民間建設工事標準請負契約約款(甲・乙)および建設工事標準下請契約約款をまとめて「標準約款」と表記します。
まず見るべきは請負代金内訳書
今回の改正対応で、最初に見るべきなのは契約書の表紙や印紙欄ではありません。入口になるのは、請負代金内訳書に何を明示する設計になっているかです。
国土交通省・中央建設業審議会の資料では、改正後の建設業法第20条第1項を踏まえ、請負代金内訳書に明示する項目として、従来から意識されてきた法定福利費に加え、材料費、労務費、安全衛生経費、建設業退職金共済掛金を追加する趣旨が示されています。対象条項として、公共約款第3条、民間約款(甲)第4条、民間約款(乙)第2条、下請約款第2条が挙げられています。
また、改正後の建設業法第20条では、建設業者が、材料費、労務費、適正な施工を確保するために不可欠な経費の内訳だけでなく、工事の工程ごとの作業および準備に必要な日数を記載した見積書を作成するよう努めることが示されています。
これは努力義務ですが、実務上は軽視できません。見積段階で内訳や作業日数が残っていないと、後日の変更協議、価格転嫁の説明、下請契約の条件確認、社内承認の根拠資料として使いにくくなるためです。つまり、金額の内訳だけでなく、工程や作業日数をどの書式に残すかも確認対象になります。
実務では、次の順で確認すると漏れを減らせます。
1. 見積書に、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金、作業日数を記載できる欄があるか
2. 契約書または注文書に、請負代金内訳書を契約書類の一部として扱う記載があるか
3. 変更契約時にも、当初契約と同じ粒度で内訳を出し直す運用になっているか
4. 下請契約、再下請契約でも、同じ考え方を展開できる書式になっているか
特に注意したいのは、元請・一次下請間では内訳を整える一方で、一次下請・二次下請間では従来の総額記載のまま残るケースです。改正対応を「自社の契約書だけ」の話にすると、労務費確保や価格転嫁の説明が下請階層の途中で途切れます。
変更協議は申出方法まで決める
次に見直すべきなのは、資材高騰、供給不足、工期変更が起きたときの契約変更協議条項です。従来のひな型では、工期変更や請負代金変更について「協議のうえ定める」とだけ書かれていることがあります。しかし、それだけでは、いつ、誰が、どの資料を添えて、どの期限で協議を申し出るのかが曖昧です。
国土交通省・中央建設業審議会の資料では、資材高騰など請負代金額等に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあるときは、契約締結前に受注者が注文者に情報を通知すること(改正建設業法第20条の2)、資材高騰等が顕在化した場合には、受注者から注文者に契約変更の協議を申し出ることができ、注文者は誠実に協議に応ずるよう努めなければならないことが示されています。民間約款(甲)では第30条・第31条、民間約款(乙)では第21条・第22条、下請約款では第19条・第22条が関係条項として挙げられています。
ただし、協議申出ができることと、請負代金の増額や工期延長が当然に認められることは同じではありません。実際の変更可否や変更額は、契約内容、発生した事象、資料の根拠、当事者間の協議結果によって異なります。
契約書ひな型では、少なくとも三つを明確にしておくべきです。第一に、協議を申し出られる事象です。資材価格の高騰、主要資材の供給減少、賃金または物価の変動、発注者都合の設計変更、施工条件の相違などを、契約書や別紙で整理します。第二に、協議の入口です。現場担当者の口頭相談で止めず、書面またはメールで協議申出を残す運用にします。第三に、社内承認です。工期延長、請負代金増額、追加工事、施工範囲変更のどれに該当するかを、誰が判断するのか決めておきます。
ここで経営側が決めるべきなのは、「値上げ交渉を強くするかどうか」ではありません。契約変更協議の入口を契約書に置き、協議に使う資料を社内で標準化し、現場判断だけで追加作業を始めない仕組みにすることです。契約書の条項と、見積書、変更見積書、変更契約書、社内稟議の流れがつながっていなければ、改正対応は現場で機能しません。
下請契約まで同時に直す
今回の改正対応で失敗しやすいのは、法務担当や事務担当が契約書ひな型だけを新しくし、現場の発注手順が以前のまま残ることです。契約書に新しい条項を入れても、現場が古い注文書を使い、変更工事を口頭で進め、あとから増額交渉をする流れであれば、実務上のリスクは残ります。
社内運用では、「契約前」「契約時」「変更時」「下請発注時」の4段階で管理します。契約前は、見積条件、施工範囲、施工制約、全体工程、支給材の有無を明示する段階です。契約時は、請負代金内訳書を契約書類として保管する段階です。変更時は、追加工事、資材高騰、工期変更の協議申出を記録する段階です。下請発注時は、元請・一次間だけでなく、一次・二次間でも同じ考え方を展開する段階です。
あわせて、労務費・賃金の適正支払を約する条項であるコミットメント条項を採用するかどうかも検討対象になります。国土交通省・中央建設業審議会の資料では、労務費・賃金の適正な支払を担保する取組として、受注者が注文者に対し、適正な賃金や労務費を技能者や直接の下請事業者に支払うこと等を約し、必要に応じて注文者が支払いに関する書類等の提出を求めることができる規定を導入する旨が示されています(公共約款第3条の2、民間約款(甲)第4条の2、民間約款(乙)第2条の2、下請約款第2条の2関係)。ただし、これは契約当事者の任意で利用できる選択条項として追加されたものです。
したがって、コミットメント条項は、すべての契約で機械的に入れるべき条項ではありません。採用する場合は、どの契約階層から導入するか、確認資料を誰が見るか、提出を求める場面をどう限定するか、下請先に過度な事務負担をかけないかまで決める必要があります。一方で、労務費の行き渡りを確保する趣旨から、導入範囲や確認方法を整理したうえで、活用を検討する価値はあります。
また、民間約款(甲)・民間約款(乙)・下請約款には、暴力団排除条項の追加も示されています。反社会的勢力排除の表明保証や解除条項をすでに入れている会社でも、標準約款との整合性は確認しておくべきです。
参考
国土交通省・中央建設業審議会「建設工事標準請負契約約款の実施について」令和7年12月2日
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001971694.pdf
国土交通省「労務費・必要経費等を内訳明示した見積りの普及に向けて」(令和7年12月2日中央建設業審議会配付資料 資料2-3)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001855074.pdf
国土交通省「中央建設業審議会 令和7年12月2日開催 配付資料」
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/tochi_fudousan_kensetsugyo13_sg_000001_00070.html
よくある質問(FAQ)
標準約款は、中央建設業審議会が作成・勧告する契約約款のひな型であり、標準約款そのものが法令というわけではありません。そのため、標準約款をそのまま使わないこと自体が、直ちに違法となるわけではありません。
一方で、建設業法第19条の契約書面に関するルールや、第20条の見積・内訳明示に関するルールなど、建設業法上の義務は標準約款を使うかどうかとは別に適用されます。自社ひな型を使う場合でも、契約書の記載事項、内訳明示、工期・請負代金変更の方法、下請契約への展開などが、法令や標準約款の考え方とずれていないかを確認する必要があります。
本文だけでは不十分です。今回の改正対応では、見積書、請負代金内訳書、注文書、注文請書、変更見積書、変更契約書までつながっているかが重要です。特に、材料費、労務費、法定福利費、安全衛生経費、建退共掛金、作業日数などを、見積段階と契約段階でどう残すかを決めておかないと、契約書本文だけ新しくても実務で使えません。
まず確認すべきなのは、請負代金内訳書を契約書類として扱う条項、工期・請負代金変更の協議条項、追加工事・設計変更時の承認フロー、下請契約への展開部分です。特に、独自条項で標準約款の考え方と異なる運用をしている場合や、発注者・元請・一次下請・二次下請で契約条件が連動していない場合は、社外専門家に確認することが望ましいです。
※本コラムは、国土交通省および中央建設業審議会の公表資料をもとに、建設会社における契約書・見積書・請負代金内訳書等の見直しポイントを一般的に整理したものです。具体的な契約条項の採否、変更協議の可否、請負代金・工期変更の取扱いは、個別の契約内容、工事条件、発注形態、取引関係により異なります。必要に応じて、弁護士、行政書士、建設業許可・契約実務の専門家等に確認してください。
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