
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
今回確認すべきなのは、見積書や契約書の形式ではなく、指値発注、赤伝処理、やり直し工事、支払保留など、日常的な下請取引で問題になりやすい運用です。
・お読みいただきたい方
元請として下請会社へ発注する建設会社、協力会社との発注・変更・精算を管理する経営者、役員、工事部門責任者、管理部門の方。
・リスクへの備え
「いつもの調整」「現場判断」「後で精算」という運用を見直し、金額変更、追加工事、控除、支払保留の理由を、書面または電子データで残す社内ルールにしてください。
・記事で分かること
建設会社が点検すべき5つの下請取引NG行為と見直し手順。
ガイドライン対応は「書式」より「運用」が問われる
4月掲載の「改正建設業法後の見積・契約・工期の直し方」では、見積書、契約書、工期設定をどう見直すべきかを整理しました。
https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-31/
今回の記事では、その続編として、書式を整えた後に確認したい「実際の取引でやりがちなNG行為」に絞って整理します。
建設業法令遵守ガイドラインでは、元請負人と下請負人の関係について、建設業法に違反する行為や、違反のおそれがある行為が具体的に示されています。国土交通省の掲載ページでは、元請負人と下請負人間のガイドライン第12版、発注者と受注者間のガイドライン第8版が、いずれも令和8年1月最終改訂版として公開されています。ページ上では、一部条文の記載誤りについて令和8年2月2日に訂正更新した旨も示されています。([国土交通省](https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html))
ここで重要なのは、問題になる行為が、明らかな不正だけではない点です。たとえば、協議せずに金額を決める、変更契約を後回しにする、根拠が曖昧な控除をする、理由を示さずに支払を止める。こうした「現場ではよくある処理」が、ガイドライン上の注意点に重なります。
そのため、経営側が見るべきなのは、担当者が悪意を持っているかどうかではありません。会社として、協議・合意・記録の手順があるか。現場任せの値引きや精算が残っていないか。この点を確認する必要があります。
建設会社がやりがちな5つのNG行為
この記事では、ガイドラインの各項目のうち、建設会社の日常実務で特に問題化しやすいものを、実務上の点検項目として5つに整理します。
・自社の予算だけを基準に、協議せず請負代金を決める指値発注
・追加工事や変更工事を、協議や変更契約なしで先に進める運用
・下請負人側に責任がないやり直し工事の費用を、一方的に負担させる処理
・協力会社への支払から、根拠が曖昧な控除を行う赤伝処理
・正当な理由や説明がないまま、支払を保留または遅延する対応
指値発注について、ガイドラインでは、自社の予算額のみを基準として協議を行わず、一方的に請負代金を決めて契約する場合や、合理的根拠なく見積額を著しく下回る額で一方的に決める場合などが、行為の態様によって、建設業法上違反となるおそれがある行為、または直接違反となる行為として示されています。
また、追加工事や変更工事について、協議や必要な変更契約を行わないまま進め、施工途中または終了後に金額や費用負担を一方的に決める運用は、建設業法上問題となるおそれがあります。
やり直し工事も注意が必要です。下請負人の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、やり直し工事を行わせ、必要な変更契約を締結せずに費用を一方的に負担させた場合は、行為の内容や状況によって、建設業法上違反となるおそれがある行為事例、または直接違反となる行為事例として整理されています。
ここでの実務上のポイントは、値引き、控除、支払保留、やり直し工事がすべて禁止されるという意味ではないことです。問題になりやすいのは、理由が曖昧なまま、協議を省き、立場の強い側が一方的に決める運用です。
社内で見直すべき実務ルール
経営者・役員が最初に確認すべきなのは、現場担当者が使っている発注・変更・精算の流れです。契約書のひな形だけを直しても、現場で「先にやっておいて」「金額は後で合わせる」「今回は協力してほしい」という運用が残っていると、実務上のリスクは下がりません。
まず、追加工事や変更工事について、着手前に金額・工期・施工範囲を確認するルールを作ることです。緊急対応などで事前の変更契約が難しい場合でも、いつ、誰が、どの内容を依頼し、費用負担をどう協議したのかを記録する必要があります。
次に、赤伝処理や支払保留について、現場担当者だけで判断しない承認ルールを作ることです。安全協力費、事務手数料、清掃費、補修費、その他の調整金など、控除の名目はいろいろあります。しかし、相手方との合意や金額の根拠が曖昧なまま差し引くと、後から説明しにくい処理になります。
さらに、やり直し工事については、誰の責任で発生したのかを最初に確認する運用が必要です。発注者側の指示変更、設計変更、他業者との調整不足、現場条件の相違などが原因であれば、単純に施工側へ費用を負担させる処理は危険です。責任の所在、追加費用、工期への影響を確認し、必要に応じて変更契約につなげる流れを社内ルールにしてください。
保険面では、建設業法上の問題や取引上の不適切な運用そのものを、保険で帳消しにすることはできません。ただし、工事中の対人・対物事故、引渡し後の事故、労災事故などが同時に発生することはあります。そのため、第三者賠償責任保険、建設工事保険、組立保険、任意労災、使用者賠償責任補償について、記名被保険者、被保険者の範囲、支払限度額、免責金額、保険期間を確認しておくと、事故時の初動整理に役立つ場合があります。なお、具体的な補償範囲や保険金の支払可否は、各契約内容および事故状況により異なります。
参考
国土交通省「建設業法令遵守ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000188.html
国土交通省「元請負人と下請負人間における建設業法令遵守ガイドライン 第12版」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979927.pdf
国土交通省「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン 第8版」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979929.pdf
よくある質問(FAQ)
違います。金額交渉そのものが直ちに禁止されるわけではありません。問題になりやすいのは、協議せず、自社の予算だけを基準に一方的に金額を決めることです。見積額を下げる場合でも、根拠、変更内容、工期への影響を確認し、合意内容を残す必要があります。
すべてが直ちにNGという意味ではありません。ただし、控除の理由、金額、相手方との合意が曖昧な赤伝処理は危険です。安全協力費、事務手数料、協力会費、清掃費、補修費などの名目であっても、根拠が説明できない控除は見直すべきです。
担当者個人の判断で、値引き、追加工事、控除、支払保留が処理されると、会社として説明できる記録が残らないことがあります。ガイドライン対応では、担当者の経験だけに頼らず、協議・承認・記録の流れを会社のルールにすることが重要です。
建設業法令遵守ガイドラインへの対応は、難しい法律論を暗記することではありません。自社の発注、変更、精算、支払の中に、一方的な決定や記録のない処理が残っていないかを点検することです。まずは、指値発注、追加変更、やり直し工事、赤伝処理、支払保留の5つを、社内点検の優先項目にしてください。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
ご相談はこちら
営業時間 平日9時~18時(土・日・祝除く)






当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を禁じます。
Copyright