
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
安すぎる金額や無理な工期を前提にした受注を避け、見積・契約・工程の内容を先に具体化する方向へ直す必要があります。2025年12月12日に、改正建設業法のうち見積書記載事項の明確化、不当に低い請負代金・著しく短い工期による契約締結の禁止強化などが完全施行されます。
・お読みいただきたい方
建設会社の経営者、役員、営業担当、積算担当、現場責任者、下請との契約実務に関わる方。
・リスクへの備え
見積書は、総額だけでなく、材料費・労務費などの根拠や前提条件が伝わる形へ寄せる。契約書は、法定記載事項を前提にしつつ、特に変更時の扱いを具体化する。工期は、希望日ではなく、適正施工と法令順守ができる日数で引き直す。この3点を社内ルールにしてください。
・この記事で分かること
見積・契約・工期を直すための3つの手順。
まず見積書は「総額だけ」から卒業する
今回の改正で重要なのは、ただ安く受ければよいという考え方が通りにくくなったことです。ここで誤解しやすいのは、見積書の内訳明示が何でも一律に絶対義務になるわけではない、という点です。改正後は、受注者に対して、工事内容に応じた材料費、労務費、適正な施工に不可欠な経費等が記載された見積書の作成に努めることが求められます。つまり、まずは 努力義務 です。
そのうえで、記載する材料費等については、通常必要と認められる額を著しく下回る見積りをしてはならないとされています。さらに、受注者から内訳明示された見積書が交付された場合、発注者は、その内容を考慮するよう努める必要があり、通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回ることとなるような変更を求めてはならないとされています。ここは、単なる値引き交渉全般の話ではなく、内訳明示された見積書の内容を不当に切り下げる変更要求が問題になる、という整理です。
わかりやすく言えば、「この工事を安全に終えるのに本来いくら必要か」が分かる見積書に寄せる、ということです。今までのように総額だけを出す形だと、あとで「その金額の根拠は何か」が説明しにくくなります。
実務では、少なくとも 必要な費目と前提条件が見える形に寄せた方が安全です。材料費、労務費、機械・車両、外注費、法定福利費、安全衛生や現場管理に必要な費用、値引きの有無、見積りの前提条件です。特に、「どこまでが見積範囲か」「夜間作業や休日作業を含むか」「残土処分や養生を含むか」は抜けやすいので、短い一文でも残すべきです。これは、あとで不当な値下げ要求や責任の押し付けを避けるための防波堤になります。
契約書は法定記載事項を前提に、まず「変更時のルール」を具体化する
契約書で誤解が多いのは、金額と工期だけ書けば足りると思われやすい点です。実際には、建設業法19条の契約書記載事項はもっと広く、工事内容、請負代金、着手時期と完成時期だけでなく、前払・出来形払、設計変更や工事延期の場合の工期変更・代金変更・損害負担、不可抗力、価格変動、第三者損害、検査・引渡し、完成後の支払、契約不適合、債務不履行時の損害負担、紛争解決方法などが並びます。したがって、変更時のルールまで書くことは重要ですが、そこだけ書けば足りるという意味ではありません。
そのうえで、実務上まず優先して見直した方がよいのが、追加変更が出たときに誰が何を確認するか、工期が延びたときに増える費用や損害負担をどう整理するか、工事をしない日や時間帯の制限があるか、この3点です。現場では、図面変更、追加工事、資材価格の変動、天候、他業者待ちで予定がずれます。そのとき契約書にルールが薄いと、結局は立場の弱い側が飲み込む形になりやすくなります。
さらに重要なのは、実際に内容が変わったときは、口頭で済ませず、書面で変更契約までつなげることです。見積書と契約書の内容がずれていると、後で言った・言わないになりやすいので、見積書と契約書は別文書ではなく、同じ設計図のようにそろえて管理するのが実務です。契約前に発注者が提示すべき具体的内容は、請負代金額を除く契約上の重要事項とされており、最初の条件整理そのものが重要です。
工期は「希望日」ではなく「守れる日数」で決める
今回、いちばん誤読されやすいのが工期です。法改正で「必ず何日以上でなければならない」と 一律の日数が決まったわけではありません。そうではなく、工事内容や条件に応じた適正な工期を設定し、著しく短い工期による契約を避ける方向が強く求められています。
わかりやすく言えば、「気合いで終わらせる予定」はもう通しにくい、ということです。工期は希望日ではなく、守れる日数 で決める必要があります。安全、休日、天候、資材納期、他業者との順番待ちを無視した工程は、紙の上では短く見えても、現場では事故、品質低下、追加費用、残業増加を呼びます。
社内では、工期設定を営業だけで決めない形に直した方がよいです。見積段階で、施工部門または現場責任者が、作業日数、施工不能日、搬入制約、応援要員の有無を確認し、その結果を営業が契約条件に反映する流れに変えるべきです。加えて、契約前には、工期や請負代金に影響する事情の通知も重要です。地盤や施工条件に関する情報だけでなく、資材の供給状況や価格高騰など、契約条件に影響する事情を早い段階で共有しておかないと、後で無理な工期や無理な金額を招きやすくなります。短縮要請が出た場合も、ただ断るか受けるかではなく、「増員が必要か」「休日作業が必要か」「安全面の追加措置が要るか」を見える化して、金額とセットで再提示する運用が安全です。
参考
国土交通省 報道発表「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo13_hh_000001_00317.html
国土交通省「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979925.pdf
国土交通省「工期に関する基準」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk1_000190.html
よくある質問(FAQ)
そこまで読むのは正確ではありません。改正後は、材料費・労務費などを記載した見積書の作成に努めることが求められますが、条文上はまず努力義務です。ただし、記載した材料費等を通常必要額より著しく低くすることは禁止されます。
足りません。法定記載事項はもっと広いです。そのうえで、実務上まず優先して見直すべきところが、変更時の確認手順、工期変更時の代金や損害負担、施工しない日や時間帯の扱いです。さらに、実際に変更したときは書面で変更契約まで行う必要があります。
決まりません。法律や工期基準が求めているのは、工事内容や条件に応じた適正工期です。つまり、工事ごとに必要日数を見て決めるのであって、全国一律の固定日数を当てはめる考え方ではありません。
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