足場板破損と会社の備え

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点検不足が経営リスクに

足場板破損と会社の備え

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント
    足場板のツメや床材の損傷は、軽いヒヤリ・ハットで終わらず、墜落・死亡事故、使用者責任、元請評価の低下につながるリスクです。

    ・お読みいただきたい方
    足場を使う建設会社の経営者、工事部門責任者、安全管理担当者、下請管理を行う会社。

    ・リスクへの備え
    作業開始前点検と組立て等後点検の違い、足場材の使用中止基準、点検実施者の指名、元請・下請間の確認責任、任意労災・使用者賠償責任補償の有無を一体で確認することです。

    ・この記事で分かること
    足場板破損を会社の損失に広げないための3つの確認点。

  • 足場板破損は経営問題になる

    足場板のツメ破損や床材の劣化は、現場の小さな不具合に見えます。しかし、足場上で作業者が体勢を崩せば、墜落・転落による重傷や死亡事故に発展するおそれがあります。厚生労働省のヒヤリ・ハット事例でも、足場板のツメ取付け部の劣化に気づかず、足場板が傾いて作業者が転落しそうになった事例が紹介されています。

    建設業では墜落・転落災害による死亡者が今なお年間100人以上発生しているとして、足場からの墜落・転落防止対策の強化を示しています。経営者が見るべき点は、「けがをしたかどうか」だけではありません。足場板の劣化を見落としたまま使用していた場合、作業開始前点検、組立て等後点検、足場材の管理、下請への指示、元請としての確認体制、安全配慮義務の履行状況が問われる可能性があります。

    特に注意したいのは、足場板が一見して通常どおり掛かっているように見える場合です。ツメの変形、取付け部の劣化、床材の損傷、掛かり不足は、遠目では異常に見えないことがあります。だからこそ、足場板破損は「現場の注意力」ではなく、「会社として不良部材を使わせない仕組み」で管理すべきリスクです。

  • 点検場面を分けて整える

    足場の点検は、毎日の作業開始前に確認すべき事項と、足場の組立て・一部解体・変更後、強風・大雨・大雪・中震以上の地震後など、足場の状態が変わるおそれがある場合に確認すべき事項を分けて考える必要があります。作業開始前には、作業を行う箇所に設けた手すりや交さ筋かい等の足場用墜落防止設備について、取り外しや脱落の有無を確認します。必要に応じて、床材の損傷、取付け、掛渡し、変形、腐食などの構造面も併せて確認し、異常があれば、まず使用を止め、補修・交換・隔離につなげる運用が必要です。

    一方、足場の組立て・一部解体・変更後、悪天候後、地震後などの点検では、床材の損傷、取付け及び掛渡しの状態、緊結部や接続部の緩み、緊結材や金具の損傷・腐食、脚部の沈下や滑動、筋かいや壁つなぎ等の状態など、足場の構造に関する項目をより具体的に確認する必要があります。ここを毎日の作業開始前点検と同じものとして扱うと、点検範囲や点検者の要件を誤って理解するおそれがあります

    点検者も「誰でもよい」わけではありません。作業開始前点検では、職長等、その足場を使用する労働者の責任者から点検実施者を指名する運用が求められます。組立て・変更後等の点検では、足場の構造について十分な知識・経験を有する者を指名することが重要です。経営側は、誰が点検するかだけでなく、異常がある足場板を誰が使用中止にするのか、不良部材をどこへ隔離するのか、元請・一次下請・二次下請のどこまで報告するのかまで決めておく必要があります。

    「建設業の墜落防止は段取りで決まる」(https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-28/)でも触れているとおり、墜落防止は作業者の注意喚起だけでは足りません。作業前に危険箇所を見つけ、使わせない、近づけない、記録に残すという段取りが必要です。足場板破損も同じで、事故後に原因を探すより、事故前に使用停止できる会社かどうかが問われます。

  • 保険と自己負担の分かれ目

    足場板の破損で作業者が負傷した場合、まず労災保険の対象となるかを確認します。そのうえで、任意労災の死亡補償保険金、後遺障害補償保険金、入院・手術・通院補償保険金、休業補償特約などを確認します。重傷事故や死亡事故では、会社の法律上の損害賠償責任が問題となり、使用者賠償責任補償の確認が必要になる場合があります。

    足場板の破損が原因で工具や部材が落下し、第三者や隣接物件に損害が出た場合は、第三者賠償責任保険の工事中対人対物事故として確認する余地があります。建設業では、請負業者賠償責任保険、建設工事保険に付帯する賠償補償、事業活動包括保険など、契約している保険の構成によって確認先が変わることがあります。ただし、補償対象となるかどうかは、契約内容、特約、支払限度額、免責金額、事故状況、過失関係により異なります。保険名が同じでも、すべての費用が同じように対象になるわけではありません。

    経営上、分けて見ておきたいのは、保険で確認できる可能性がある費用と、保険で必ずしも対象とならない費用です。任意労災や使用者賠償責任補償で確認するのは、主に労災上乗せ補償や法律上の損害賠償責任に関する部分です。一方、工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政処分対応費用、発注者からの評価低下、ブランド毀損対応費用などは、当然に対象となるものではありません。補償対象は契約内容や特約により異なるため、事故前に証券単位で確認する必要があります。

    足場材を自社で保有している会社と、リース会社や協力会社の手配に依存している会社では、点検記録、使用停止判断、返却・交換依頼、費用負担の責任分界が変わります。事故が起きてから「誰の足場材だったか」「誰が交換を判断すべきだったか」を確認するのでは遅いです。足場材の管理台帳、点検記録、不良部材の隔離ルール、協力会社との報告手順を、保険証券の確認とあわせて整えておくことが経営上の備えになります。

    執筆者の意見

    この足場板破損リスクは、現場で起きる単発の不具合ではなく、会社の点検体制と不良部材の使用停止ルールが機能しているかを示す問題です。
    実務上は、作業開始前点検と組立て等後点検を分けたうえで、異常を見つけた足場板を誰が止め、誰へ報告し、再使用をどう防ぐかが問われます。
    この事故類型では、労災保険、任意労災、使用者賠償責任補償、第三者賠償責任保険を分けて確認する必要があります。
    実務上は、足場材を自社保有している場合と、リース会社や協力会社の手配に依存している場合で、点検・交換・費用負担の責任分界を分けて整理する必要があります。
    弊社は、足場を使う建設会社では、保険で事故後の資金流出に備えるだけでなく、使用前点検と不良部材の隔離ルールを経営管理の一部として整えるべきだと考えます。



    前田朗伸(まえだ あきのぶ)
    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)
    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上

    あわせて確認しておきたい記事

    「スレート屋根の踏み抜き事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-37/
    「高所作業車事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-30/
    「高所作業の資材落下事故と建設業の賠償リスク」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-25/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 足場板の破損は、作業者の不注意として処理できますか。


    A1. 作業者の歩き方だけで処理するのは危険です。足場板のツメ、床材、取付け、掛渡しの状態は、足場を安全に使うための確認対象です。破損や劣化を見落として使用していた場合、会社の点検体制や不良部材の管理も確認される可能性があります。

    Q2. 作業開始前点検で、床材や腐食まで毎日すべて確認する必要がありますか。


    A2. 法令上の作業開始前点検では、作業を行う箇所の足場用墜落防止設備について、取り外しや脱落の有無を確認することが中心です。ただし、必要に応じて床材の損傷、取付け、掛渡し、変形、腐食なども確認し、異常があれば使用を止め、補修・交換・隔離につなげる運用が重要です。足場の組立て・一部解体・変更後、強風・大雨・大雪・中震以上の地震後など、足場の状態が変わるおそれがある場合は、床材や緊結部など構造面の点検項目をより具体的に確認する必要があります。

    Q3. 足場からの転落事故は、任意労災に入っていれば対応できますか。


    A3. 任意労災で死亡、後遺障害、入院、手術、通院、休業などを確認できる場合がありますが、十分かどうかは契約内容と事故状況によります。会社の法律上の損害賠償責任が問題となる場合は、使用者賠償責任補償の有無も確認が必要です。工期遅延、売上減少、行政処分対応費用、信用低下への対応費用などは当然に対象となるものではありません。

    参考

    厚生労働省 職場のあんぜんサイト『足場の組立工事で足場上を歩行中、足場板のツメが破損して板が傾き、バランスを崩して転落しそうになった』(2026年6月閲覧)
    https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/hiy_0398.html

    厚生労働省『足場の安全点検について』(2026年6月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/000972012.pdf

    厚生労働省『足場からの墜落防止対策を強化します。~令和5年10月1日から順次施行~』(2026年6月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40439.html

    最終確認日
    2026年06月08日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認日 :2026年6月9日

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