休める工程が若手を残す

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長時間労働対策と工期設定

休める工程が若手を残す

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:若手定着の前提は「残業を減らす掛け声」ではなく、受注時点から休める工程を組むことです。

    ・お読みいただきたい方:若手社員の離職、休日出勤の常態化、現場任せの工程調整に課題を感じている建設会社の経営者
    ・リスクへの備え:見積時に工程ごとの必要日数、天候・準備・後片付け・休日を織り込み、無理な工期は契約前に発注者や元請と協議する体制を整えること
    ・この記事で分かること:2024年4月以降の時間外労働上限規制、著しく短い工期の考え方、若手が休める工程管理の3つの実務ポイント

  • 若手が辞める原因は残業だけではない

    若手社員の離職にはさまざまな理由がありますが、「根性がない」「現場に向いていない」とだけ片付けると、会社側の改善点を見落とします。建設業では繁忙期、天候遅れ、前工程の遅延、追加変更、資材納期のズレが重なり、現場の残業や休日出勤にしわ寄せが出やすい構造があります。

    問題は、残業そのものよりも「いつ休めるかが見えないこと」です。今週末に休めるのか、代休が取れるのか、応援を呼べるのかが曖昧なまま工程だけが先に決まると、若手は将来の働き方を描きにくくなります。

    2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。36協定を締結する場合でも、原則として時間外労働は月45時間・年360時間以内であり、臨時的な特別の事情がある場合にも年720時間以内、単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの上限があります。

    なお、災害時における復旧・復興事業については、時間外労働と休日労働の合計に関する「月100時間未満」「2〜6か月平均80時間以内」の規制が適用されない扱いがあります。ただし、通常工事まで広く除外されるものではなく、建設業では原則として時間外労働の上限規制を前提に工程を組む必要があります。

    いわゆる建設業の「2024年問題」は、こうした時間外労働上限規制への対応を、現場任せではなく受注・契約・工程管理の段階から見直す必要がある、という問題でもあります。つまり、長時間労働対策は労務担当者だけの仕事ではありません。受注判断、見積、契約、配置、工程変更の判断に関わる経営課題です。

  • 長時間労働は工期設定で大きく左右される

    現場の残業は、現場が始まってから突然発生するとは限りません。多くの場合、見積時点で必要な準備期間、施工日数、検査、後片付け、休日、天候による作業不能日が十分に織り込まれていないことが原因になります。

    国土交通省の「工期に関する基準」では、工期設定にあたり自然要因、休日・法定外労働時間、イベント、制約条件、関係者との調整、行政への申請、労働・安全衛生、工期変更などを考慮すべき事項として整理しています。これは公共工事だけを意識すればよい話ではなく、民間工事や元下間の契約でも、無理な工程を避ける実務上の基準として参照できます。

    建設業法では、注文者が通常必要と認められる期間に比べて著しく短い工期で請負契約を締結することを禁止しています。ただし、「短い工期ならすべて違法」と単純に読めるものではありません。工事内容、施工条件、人員体制、資材調達、天候、前後工程、休日確保などを踏まえ、通常必要と考えられる期間との比較で判断されます。

    実務上は、見積依頼時の条件、提出した見積書、工程表、過去の類似工事との比較、協議記録などを残しておくことが、後から工期の妥当性を説明する材料になります。経営者が確認すべきことは、工程表が「完成日から逆算した希望表」になっていないかです。見積段階で作業ごとの必要日数を明らかにし、休工日や悪天候リスクを織り込んだうえで、それでも厳しい場合は契約前に条件を協議する必要があります。関連する契約実務は「改正建設業法後の見積・契約・工期の直し方」もあわせて確認しておくと整理しやすくなります。

  • 休める工程を会社の仕組みにする

    若手定着につながる工程管理は、現場監督の個人技だけに依存させないことが重要です。経営側が、受注時点で無理な納期を受けない基準、工程遅延時の協議ルール、応援要員の判断基準、休日取得の最低ラインを持っていなければ、現場は「何とかする」しかありません。週休2日を掲げるだけでなく、工程表上に休工日として反映されているかを確認することが重要です。

    実務では、次の4点を確認します。

    ・見積時に、準備期間、施工期間、検査、後片付け、休日、天候リスクを工程に入れているか
    ・元請や発注者から短工期を求められた場合、増員・夜間作業・休日作業の前提と費用を明確にしているか
    ・前工程の遅れや追加変更が出た場合、工期延長や請負代金変更を協議する手順があるか
    ・若手社員の休日取得状況を、現場単位ではなく会社として把握しているか

    たとえば、休日出勤が2週連続で発生する工程、悪天候予備日をまったく見込んでいない工程、前工程の遅れを自社の残業だけで吸収する工程は、受注前または変更時に経営側が確認する対象にする、といった基準を持つことが考えられます。

    保険面では、長時間労働や無理な工程が事故につながった場合、労災事故、第三者への対人対物事故、工事物件の損壊など、複数のリスクが重なることがあります。任意労災、使用者賠償責任補償、第三者賠償責任保険、建設工事保険などの確認は有効ですが、保険金の支払可否は契約内容、特約、事故状況、免責事項により異なります

    保険を確認する際は、労災上乗せ補償の対象者、使用者賠償責任補償の有無、協力会社や一人親方の扱い、第三者賠償事故との重なり、工事物件の損害、事故後の弁護士費用や初期対応費用の範囲を、保険証券と特約で確認しておくことが重要です。また、工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政対応費用、信用低下への対応費用などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。補償対象は契約内容や特約によって異なるため、事故時の費用をすべて保険で吸収できると考えるのは危険です。

    執筆者の意見

    この時間外労働上限規制と工期基準は、残業時間を後から集計するだけでは不十分であることを意味します。実務上は、見積・契約・工程変更の段階で、休日と天候リスクをどこまで織り込んだかが問われます。弊社は、若手定着を人事施策だけで捉えるのではなく、受注判断と工程管理を含めたリスク経営の問題として見直す必要があると考えます。
    ── 株式会社イカリエージェンシー 損害保険トータルプランナー

    あわせて確認しておきたい記事

    「第三次担い手3法とは?建設業法改正の要点」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-26/
    「中小建設業のOJT設計」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-43/
    「若手定着に効くキャリアの見える化」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-36/
    「建設会社が見直したい5つの下請取引NG行為」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-41/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 建設業では、もう残業はできないのですか。


    A1. 残業が一切できないわけではありません。36協定の締結など必要な手続きを前提に、労働基準法の上限規制の範囲内で管理する必要があります。原則は月45時間・年360時間以内であり、臨時的な特別の事情がある場合でも年720時間以内、単月100時間未満、複数月平均80時間以内などの制限があります。なお、災害時における復旧・復興事業については一部異なる扱いがありますが、通常工事まで広く除外されるものではありません。

    Q2. 発注者から短い工期を求められた場合、断るしかありませんか。


    A2. 直ちに断るというより、工程ごとの必要日数、休日、天候、資材調達、人員体制を示し、工期延長や施工条件の見直しを協議することが先です。著しく短い工期の禁止は、通常必要と認められる期間との比較で問題になります。契約前に根拠を示して協議した記録を残すことが重要です。

    Q3. 若手定着のために、最初に見直すべきことは何ですか。


    A3. 休日が工程表に最初から入っているかを確認することです。休日や悪天候を考慮せず、完成日から逆算しただけの工程では、遅れが出たときに残業や休日出勤で吸収するしかありません。若手の教育や面談だけでなく、休める前提の工程管理を会社の標準にする必要があります。

    参考

    国土交通省・中央建設業審議会『工期に関する基準』(2026年6月閲覧)
    https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001735066.pdf

    厚生労働省『建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制』(2026年6月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyosyu/topics/01.html

    最終確認日
    2026年06月06日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

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