一人親方の安全衛生対応

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元請が見るべき境界線

一人親方の安全衛生対応

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント
    一人親方や個人事業者が多い建設現場では、「雇用していないから安全衛生管理の対象外」と考える運用は見直しが必要です。

    ・お読みいただきたい方
    元請、一次下請、協力会社を使う建設会社、外注先を現場に入れる経営者・役員、安全衛生責任者。

    ・リスクへの備え
    現場に入る人を「自社労働者」「協力会社の労働者」「一人親方・個人事業者」「資材搬入業者など」に分け、退避、立入禁止、保護具、周知、連絡体制の対象を整理してください

    ・記事で分かること
    一人親方を含む安全衛生対応で確認すべき5つの実務ポイント。確認すべきポイントは、①入場者区分、②危険箇所の明示、③退避・立入禁止の伝達、④保護具・作業手順の周知、⑤事故時の連絡体制です。

  • 一人親方は対象外と言い切れない

    建設現場では、雇用契約のある労働者だけでなく、一人親方、個人事業者、協力会社の作業員、資材搬入業者など、複数の立場の人が同じ場所で作業します。従来は「自社の従業員かどうか」を中心に安全衛生管理を考えがちでしたが、近年の見直しでは、同じ作業場所で危険にさらされる人をどう保護するかが重視されています。

    厚生労働省は、労働者と同じ場所で働く個人事業者等について、労働安全衛生法による保護の対象や義務の主体として位置づける改正を行い、令和7年法律第33号として令和7年5月14日に公布、2026年4月1日から主要な規定が施行されています。なお、2025年4月施行分(省令改正による退避・立入禁止等の措置)と、令和7年法律第33号(2026年4月1日施行)による個人事業者等に関する措置は、法的根拠・施行時期・対象条項がそれぞれ異なります。現場では、どの規定がいつから適用されるかを段階的に確認することが重要です。

    すでに2023年4月からは、省令改正(労働安全衛生規則等11省令)により、危険有害作業を請け負わせる一人親方等や、同じ場所で作業を行う労働者以外の人に対しても、一定の健康障害防止措置が義務付けられました。さらに2025年4月からは、別の省令改正(4省令)により、退避や危険箇所への立入禁止等の措置についても対象範囲が広がりました。

    ここで誤解してはいけないのは、「一人親方がすべて労働者になる」という話ではないことです。契約上は請負や業務委託であっても、危険箇所で同じ作業場所に入る以上、安全衛生上の周知や退避指示、立入禁止措置の対象として扱う場面がある、という整理です。労働者性の判断は、契約名ではなく、指揮監督の実態や報酬の性質などを含めて個別に見られます。そのため、現場では「労働者かどうか」と「安全衛生上、守るべき対象かどうか」を分けて考える必要があります。

  • 元請が見直すべき現場運用

    元請や上位請負会社がまず行うべきことは、現場に入る人の名簿を作るだけではありません。重要なのは、危険情報が誰に届いているか、退避や立入禁止の判断が誰に伝わるか、保護具の使用条件が誰に説明されているかを確認することです。

    以下の項目には、法令上の義務として対応すべきものと、事故防止のために実務上整えておきたい推奨運用が含まれます。すべてを一律の法定義務として読むのではなく、対象作業、作業場所、危険の内容、契約関係を確認したうえで、自社の現場運用に落とし込むことが必要です。

    実務では、次の5項目を現場単位で確認すると整理しやすくなります。1つ目は、入場者の区分です。自社社員、協力会社社員、一人親方、個人事業者、搬入業者、警備員などを分け、どの作業区域に入る可能性があるかを把握します。2つ目は、危険箇所の明示です。開口部、足場、重機作業範囲、吊り荷の下、火気使用場所、酸欠・有機溶剤などの危険有害作業エリアを現場図や朝礼で共有します。3つ目は、退避・立入禁止の伝達方法です。口頭だけでなく、掲示、カラーコーン、バリケード、無線、グループ連絡など、誰が見ても分かる方法にします。4つ目は、保護具や作業手順の周知です。ヘルメット、安全帯、保護メガネ、防じんマスクなどについて、使用が必要な場面を一人親方等にも伝える運用にします。5つ目は、事故時の連絡先と初動です。負傷者が自社社員でない場合でも、救急要請、元請への報告、現場保存、関係会社への連絡が止まらない体制が必要です。

    安全衛生上の指示を出すと偽装請負と見られるのではないか、という不安もあります。しかし、厚生労働省は2025年3月に、安全衛生確保の観点から必要な指示等を行う場合の留意事項を示しています。実務上は、作業の細かな遂行方法を日常的に指揮命令することと、危険回避のために退避・立入禁止・保護具使用を周知することを区別して記録することが大切です。契約関係を曖昧にしたまま現場で実質的な指揮命令を続けるのは別問題ですが、安全衛生上必要な情報提供や危険回避の指示まで控える運用は、現場リスクを高めます。

  • 事故後に会社が困らない備え

    一人親方や個人事業者が事故に遭った場合、会社が直面する問題は治療費だけではありません。元請や上位請負会社には、現場管理の不備、危険情報の周知不足、立入禁止措置の不徹底、保護具使用ルールの説明不足などが問われる可能性があります。事故の内容によっては、発注者への説明、工程の組み替え、行政対応、再発防止策の提出、協力会社との負担調整が必要になることもあります。

    保険面では、任意労災、使用者賠償責任補償、第三者賠償責任保険、建設工事保険などを確認する場面があります。ただし、一人親方や個人事業者が常に被保険者に含まれるとは限りません。記名被保険者、被保険者の範囲、業務に従事中の定義、法律上の損害賠償責任、支払限度額、免責金額、特約の有無によって判断が変わります。

    保険会社や商品によって、補償名称、被保険者の範囲、特約構成、免責の書き方は異なります。名称だけで判断せず、保険証券、約款、特約条項で確認してください。また、工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政処分対応費用、ブランド毀損対応費用などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。契約内容や特約、事故状況によって対象外となるケースがあるため、事故後に確認するのではなく、協力会社を含む現場運用とあわせて事前に確認しておくべきです。

    あわせて確認しておきたい記事

    関連記事「熱中症対策の「体制・手順」義務化で建設現場が直すこと」
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    関連記事「改正建設業法後の見積・契約・工期の直し方」
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    関連記事「建設会社が見直したい5つの下請取引NG行為」
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    関連記事「建設業の墜落防止は段取りで決まる」
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    参考
    厚生労働省「個人事業者等の安全衛生対策について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/anzeneisei03_00004.html

    厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html

    厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」
    https://www.mhlw.go.jp/content/001254088.pdf

    厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」
    https://www.mhlw.go.jp/content/001257620.pdf

    厚生労働省「注文者・事業者等が安全衛生上の指示等を行う場合における留意事項」
    https://www.mhlw.go.jp/content/001469300.pdf

    最終確認日
    2026年05月30日

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 一人親方は労働安全衛生法上、すべて労働者として扱われるのですか。


    A. いいえ。契約上の一人親方や個人事業者が、直ちに労働者になるという意味ではありません。ただし、危険箇所で同じ作業場所に入る場合や、作業の一部を請け負わせる場合には、安全衛生上の周知、退避、立入禁止、保護具使用などの対象として整理すべき場面があります。労働者性は、契約名ではなく働き方の実態により個別に判断されます。

    Q2. 元請が安全上の指示を出すと、偽装請負と見られますか。


    A. 安全衛生確保のために必要な退避、立入禁止、危険情報の周知、保護具使用の連絡を行うことと、請負人の作業遂行を日常的に細かく指揮命令することは分けて考える必要があります。ただし、安全衛生確保に必要な範囲を超えて作業の進め方、順序、人員配置、稼働時間などを具体的・継続的に指示する運用は、労働者性や偽装請負の判断で問題となる可能性があります。現場では、安全衛生上の指示であること、対象者、内容、理由を記録し、契約運用と現場運用が矛盾しないようにすることが重要です。

    Q3. 一人親方のケガは任意労災や賠償責任保険で対応できますか。


    A. 一般論として確認対象にはなりますが、必ず対象になるとは言えません。被保険者の範囲、業務に従事中の定義、法律上の損害賠償責任の有無、特約、免責金額、支払限度額、事故状況によって異なります。特に工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政対応費用などは対象外となるケースがあるため、保険証券と約款で事前確認が必要です。

     

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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