熱中症対策の「体制・手順」義務化で建設現場が直すこと

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水分補給の呼びかけだけでは足りない。報告体制・離脱判断・冷却・医療対応まで、現場ルールとして整えるべき内容を確認します。

熱中症対策の「体制・手順」義務化で建設現場が直すこと

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント
    2025年6月1日から、熱中症のおそれがある作業について、事業者には報告体制の整備・周知と、症状悪化を防ぐための手順整備・周知が義務付けられています

    ・お読みいただきたい方
    建設現場の現場代理人、職長、安全衛生責任者、協力会社の管理者、交通誘導などを含む警備業務の手配に関わる方。

    ・リスクへの備え
    WBGT値や気温の確認だけで終わらせず、誰が異変を見つけ、誰に報告し、どの時点で作業から離脱させ、どこで冷却し、どの医療機関へつなぐのかを現場ごとに決めておくことが必要です。

    ・この記事で分かること
    建設現場で4月から5月に見直したい5つの実務対応。

    建設現場の熱中症対策は、以前から重要な安全管理テーマでした。
    今回の改正で新たに義務付けられたのは、熱中症発生時の「報告体制の整備・周知」と「症状悪化を防ぐための実施手順の整備・周知」の2点です。水分補給や休憩取得は以前から求められてきた対策であり、今回の義務化の対象とは区別して理解する必要があります。
    今回押さえるべき点は、単なる注意喚起ではなく、法令改正により「体制」と「手順」の整備・周知が求められるようになったことです。

    現場で「水を飲ませている」「休憩を取らせている」だけでは、制度対応として十分とはいえません。熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症のおそれがある作業者を見つけた人が、すぐに報告できる仕組みを作り、その連絡先や担当者を関係作業者へ周知しておく必要があります。

  • 何が義務化されたのか

    改正労働安全衛生規則では、熱中症の重篤化を防ぐため、事業者に大きく2つの対応が求められています。

    1つ目は、早期発見のための報告体制です。熱中症の自覚症状がある作業者、または熱中症のおそれがある作業者を見つけた人が、その内容を報告できるように、連絡先や担当者を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者へ周知する必要があります。

    2つ目は、症状を悪化させないための実施手順です。作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察または処置、緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先や所在地などを、事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者へ周知する必要があります。

    対象となる作業の目安は、WBGT28度以上または気温31度以上の作業場で行われる作業のうち、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるものです

    建設現場では、屋外作業、空調が十分でない屋内作業、舗装・外構・足場・鉄骨・型枠・屋根・解体・交通誘導など、条件に該当しやすい作業が少なくありません。制度対応としては、「今年も暑くなるから気をつける」ではなく、「対象作業に該当する前提で、現場ルールを整える」姿勢が現実的です。

  • 建設現場で見落としやすい周知の範囲

    建設現場で注意したいのは、同じ場所で働いていても、所属会社や役割が分かれていることです。元請の社員、一次下請、二次下請、一人親方、資材搬入業者、警備員などが同じ現場に入る場合、報告体制や緊急対応の手順が一部の人にしか伝わっていないと、異変の発見や対応が遅れるおそれがあります。

    特に警備員は、建設作業員とは配置場所が離れていたり、単独で交通誘導を行ったりすることがあります。休憩場所や詰所から距離がある場合、周囲が異変に気づきにくい場面もあります。そのため、建設現場では警備会社任せにせず、現場全体の連絡体制の中に警備員をどう含めるかを確認しておくことが重要です。

    ただし、ここは誤解しやすい部分です。改正労働安全衛生規則に基づく措置は、基本的には個々の事業者が講ずべきものです。一方で、建設現場では複数の事業者が混在するため、元方事業者が現場全体を対象として、関係請負人や警備会社と調整することが望ましいとされています。

    つまり、実務上は「各社が自社の義務を果たす」だけで終わらせず、「現場として報告先・連絡順・離脱場所・搬送先を共有する」ことが必要になります。

    現場で最低限確認したい項目は、次のとおりです。

    ・朝礼や新規入場者教育で、熱中症のおそれがある場合の報告先を伝えているか
    ・協力会社や警備員にも、同じ緊急連絡網と搬送先情報が共有されているか
    ・作業を止める判断を、本人任せや職長任せにしていないか
    ・冷却場所、休憩場所、送迎・搬送方法が現場ごとに決まっているか
    ・WBGT値や気温の確認者、記録方法、作業調整の判断者が決まっているか

  • 4月から5月に見直すべき現場対応

    令和7年6月1日にすでに施行されており、対応が完了していない事業者は早急な整備が必要です。夏本番を前に確認したいのは、掲示物を用意することではなく、実際に動く手順になっているかどうかです。書類上の手順があっても、現場の職長や警備員が報告先を知らない、搬送先の医療機関が古い、作業離脱の判断基準が曖昧という状態では、制度対応として弱くなります。

    まず、現場ごとの熱中症対応フローを作ります。内容は複雑である必要はありません。異変の発見、報告、作業からの離脱、冷却、体調確認、医療機関への連絡、搬送、元請・協力会社への共有までを、1枚で追える形にすることが大切です。

    次に、緊急連絡網を現場単位で更新します。本社の代表番号や過去現場の連絡先ではなく、当日の現場責任者、職長、協力会社の担当者、警備会社の担当者、近隣医療機関、救急要請時に伝える現場住所を確認します。大型現場や入口が複数ある現場では、救急車の誘導場所も決めておくと実務上使いやすくなります。

    さらに、周知方法を決めます。朝礼、新規入場者教育、KY活動、掲示、協力会社との安全衛生協議会など、複数の場面で同じ内容を伝えることが望ましいです。特に新規入場者とスポットで入る作業者は、既存メンバーと同じ情報を持っているとは限りません。

    最後に、記録を残します。いつ、誰に、どの内容を周知したかが分かる記録は、社内確認にも、元請・発注者から説明を求められた場合にも役立ちます。熱中症対策は「気をつけていたか」ではなく、「体制と手順を決め、関係作業者へ周知していたか」が問われやすくなっています。

    参考
    厚生労働省・富山労働局「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」
    https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/news_topics/oshirase/0706nechushokyoka.html

    厚生労働省・警察庁・国土交通省「建設現場における建設業従事者及び警備員の熱中症予防対策の強化について」
    https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/002317127.pdf

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 水分補給や塩分補給を呼びかけていれば、義務化対応として足りますか。

    足りない可能性があります。水分補給や休憩は重要ですが、今回の制度対応の中心は、報告体制の整備・周知と、症状悪化を防ぐための手順整備・周知です。誰に報告するか、どこで冷却するか、医療機関へつなぐ判断をどうするかまで決めておく必要があります。

    Q2. 協力会社の作業員や警備員にも周知が必要ですか。

    必要と考えるべきです。改正労働安全衛生規則に基づく措置は個々の事業者が講ずべきものですが、建設現場では所属の異なる人が同じ現場で働きます。実務上は、元方事業者、関係請負人、警備会社が連携し、現場全体で報告体制や緊急対応の手順を共有することが重要です。

    Q3. どの現場でも同じ手順書を使えばよいですか。

    共通様式を使うこと自体は有効です。ただし、現場住所、搬送先、冷却場所、緊急連絡網、救急車の誘導場所、単独作業や警備員の配置状況は現場ごとに異なります。ひな形をそのまま使うのではなく、現場ごとの情報に更新することが必要です。

    熱中症対策義務化への対応は、難しい専門書類を増やすことではありません。現場で異変が起きたときに、誰も迷わず報告し、作業から離脱させ、冷却し、必要な医療対応へつなげる状態を作ることです。

    建設現場では、元請・協力会社・警備会社など複数の関係者が動きます。だからこそ、4月から5月のうちに、報告先、判断者、冷却場所、搬送先、周知方法をそろえておくことが重要です。暑くなってから急いで決めるのではなく、夏本番前に現場ルールとして整えておくことが、制度対応としても実務対応としても現実的です。

     

     

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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