
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
建設業の熱中症は、現場の体調不良で終わらず、死亡事故、労災対応、損害賠償、工期遅延、元請・下請間の責任整理に発展し得る経営リスクです。
・お読みいただきたい方
屋外作業、解体、足場、舗装、資材搬出入、改修工事など、暑熱環境下の作業を管理する建設会社の経営者・役員の方。
・リスクへの備え
2025年6月1日から、熱中症のおそれがある作業について、報告体制、重篤化防止手順、関係作業者への周知が義務付けられました。法令上求められる事項に加え、実務上は、作業中止基準、救急搬送ルール、元請・下請間の連絡体制、任意労災や使用者賠償責任補償の確認まで一体で整理しておくことが重要です。
・記事で分かること
重篤化リスクを下げるために確認したい5つのポイント
猛暑現場で死亡事故が起きる背景
熱中症事故では、初期症状の見落としや搬送判断の遅れが、重篤化につながることがあります。会社としては、予防策だけでなく、異常発見後の初動を決めておくことが重要です。
建設業では、炎天下での資材整理、足場材の搬出入、解体材の積み込み、屋根上作業、舗装作業など、短時間でも身体への負荷が大きい作業があります。気温だけでなく、湿度、直射日光、照り返し、風通しの悪さ、作業服や保護具の通気性、前日からの疲労が重なると、本人が異変に気づいた時点で既に危険な状態に近づいていることがあります。
厚生労働省は、2024年の職場における熱中症による死傷者、つまり死亡・休業4日以上の災害を1,257人、死亡者を31人と公表しています。死亡者31人のうち建設業は10人で、業種別で最も多くなっています。次いで製造業が5人です。死亡災害では、厚生労働省の発表によると、重篤化した状態で発見されたケースや、医療機関に搬送しないケースなど、初期対応の放置・遅れが確認されています(令和6年確定値)。
経営者が注意したいのは、「本人がまだ動けている」「少し休めば戻れる」という判断です。熱中症は、めまい、吐き気、ふらつき、異常な発汗、受け答えの鈍さ、頭痛、倦怠感などが出た時点で、通常作業を継続させる判断自体が危険になります。現場責任者の経験則だけに任せず、会社として離脱、冷却、連絡、搬送の基準を決めておく必要があります。
会社が問われやすい管理上の問題と重篤化リスクを下げる5つの確認ポイント
重篤化リスクを下げるには、暑熱環境の把握、休憩・冷却設備、補給管理、離脱・搬送基準、関係作業者への周知の5点を、現場ごとに確認する必要があります。
熱中症事故で問題になりやすいのは、当日の気温だけではありません。会社が危険を予測できたか、必要な対策を指示していたか、現場で実行できる体制を作っていたかが見られます。安全配慮義務の観点では、「注意するよう言っていた」という抽象的な説明だけでは足りず、現場で実際に動くルールがあったかが重要になります。
現場責任者に確認させたい5項目は、次の通りです。
作業前にWBGT値、気温、湿度、天候予測を確認する運用があるか
日陰、冷房設備、送風機、休憩場所、身体冷却用品を準備しているか
水分・塩分補給を各自任せにせず、管理者が声掛けと記録を行っているか
体調不良者を作業から離脱させる基準と、回復しない場合の搬送基準があるか
下請作業員、応援作業員、警備員にも報告先と手順が周知されているか
2025年6月1日からは、労働安全衛生規則第612条の2により、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う場合に、報告体制の整備、重篤化防止のための手順作成、関係作業者への周知が義務付けられています。対象となる作業は、WBGT値28度以上(または気温31度以上)の環境下で、継続して1時間以上、あるいは1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象となります。いずれか一方の条件を満たせば対象になります。具体的には、熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための報告体制、作業離脱、身体冷却、医師の診察または処置、緊急連絡網、搬送先の連絡先や所在地などを含む手順を定め、関係作業者に周知する必要があります。
労働安全衛生法は、労働災害の防止、職場における労働者の安全と健康の確保などを目的とする法律です。熱中症対策を単なる季節注意ではなく、会社の安全衛生管理の一部として扱うことが求められます。なお、報告体制の未整備、手順の未作成、関係作業者への未周知があれば、労働安全衛生規則上の義務違反として、行政指導や是正勧告の対象となるほか、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(法人も同額の罰金)が科される可能性があります。死亡事故など重大災害が発生した場合には、法令違反の有無だけでなく、安全配慮義務を尽くしていたかも問題になります。
実務上は、朝礼、KY活動、現場巡回、休憩指示、緊急連絡網、救急搬送先の確認を別々に運用しないことが重要です。たとえば、朝礼では当日のWBGT値と休憩時刻を共有し、巡回時には水分補給と受け答えの状態を確認し、異常があれば作業を止める権限者を明確にしておく。ここまで決めて初めて、「現場任せ」から「会社の管理」に変わります。
保険で確認したい範囲と自己負担
安全管理を徹底しても、熱中症事故が発生する可能性はゼロにはできません。事故後に会社が直面しやすいのは、労災手続きだけでなく、遺族対応、見舞金、損害賠償請求への対応、弁護士費用、工期遅延に伴う追加費用、元請・下請間の負担整理です。
労災保険は、業務上の負傷、疾病、死亡などに対して、被災労働者本人や遺族への給付を行う制度です。一方で、会社が負う可能性のある法律上の損害賠償責任、示談交渉に関する費用、会社独自の見舞金、現場停止による追加費用などは、労災保険とは別に整理する必要があります。
建設会社が確認しておきたいのは、任意労災と使用者賠償責任補償の役割の違いです。任意労災では、死亡補償保険金、後遺障害補償保険金、入院補償保険金、手術補償保険金、通院補償保険金、休業補償などが検討対象になります。一方、使用者賠償責任補償は、会社に法律上の損害賠償責任が発生した場合への備えとして確認される補償です。両者は目的が異なるため、「任意労災に入っているから賠償リスクも十分」とは判断できません。
確認の際は、保険商品名だけで判断せず、実際に付帯されている補償名、被保険者の範囲、支払条件、免責金額、支払限度額を確認することが重要です。
特に見落としやすいのは、被保険者の範囲です。役員、正社員、パート、アルバイト、下請作業員、応援作業員、一人親方がどこまで対象に含まれるかは、契約内容によって異なります。現場では同じ指揮系統で動いていても、保険契約上の扱いが同じとは限りません。
また、熱中症は外傷が見えにくいため、事故状況、作業内容、気温、WBGT値、休憩状況、水分・塩分補給の状況、発症時刻、搬送記録、医師の診断内容などを残しておくことが重要です。保険で対象となるかどうかは、補償の種類、被保険者の範囲、業務に従事中の定義、支払限度額、免責金額、特約の有無、事故状況によって変わります。ここは断定せず、保険証券と約款、現場の雇用・請負関係を照らし合わせて確認する必要があります。
なお、工期遅延に伴う追加費用や売上減少などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。補償対象となる費用は契約内容や特約によって異なるため、別途確認が必要です。
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参考
厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58389.html
厚生労働省・富山労働局「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」
https://jsite.mhlw.go.jp/toyama-roudoukyoku/news_topics/oshirase/0706nechushokyoka.html
e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057
e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000032
厚生労働省「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5874&dataType=1&pageNo=1
最終確認日:2026年5月22日
よくある質問(FAQ)
業務との関連性が認められる場合、熱中症は業務上疾病として労災認定の対象になり得ます。判断では、作業内容、作業時間、気温、湿度、WBGT値、休憩状況、水分・塩分補給の状況、発症時刻、搬送記録、医師の診断内容などが重要になります。現場では、朝礼記録、作業日報、WBGT測定記録、休憩指示、搬送時刻を残しておくことが実務上重要です。
水分補給の指示だけで十分とは言い切れません。暑熱環境の把握、休憩場所の確保、作業時間の調整、管理者の巡回、異常時の作業離脱、身体冷却、医療機関への相談・搬送、関係作業者への周知まで含めて、会社の管理体制が確認されます。
死亡補償保険金や休業補償の有無だけでなく、被保険者の範囲、下請・応援作業員の扱い、支払限度額、免責金額、使用者賠償責任補償の有無を確認してください。任意労災の法定外補償と、法律上の損害賠償責任に備える使用者賠償責任補償は役割が異なるため、保険証券だけで判断せず、契約内容と現場の実態を照らし合わせて整理する必要があります。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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