施主・取引先の暴言から社員を守る

  1. TOP
  2. コラム一覧
  3. 社内向けリスク対策
  4. 施主・取引先の暴言から社員を守る

2026年10月カスハラ対策義務化

施主・取引先の暴言から社員を守る

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:2026年10月1日から、事業主には職場のカスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上の措置が義務付けられます。

    ・お読みいただきたい方:施主、発注者、元請担当者、取引先などとの対応を社員や現場責任者に任せることがある建設業の経営者

    ・リスクへの備え:カスハラの判断基準だけでなく、相談窓口、報告先、対応交代、記録、警察・弁護士への相談、被害社員への配慮まで社内ルールとして決めておくこと

    ・この記事で分かること:法令上求められる10の措置と、建設会社が確認したい8つの実務項目

    カスタマーハラスメント対策は「社員に我慢させない」という精神論だけでは足りません。厚生労働省は、事業主が必ず講じなければならない措置を10項目に整理しています。

    建設業では、顧客との接点が店舗や電話窓口だけに限られません。施主宅、工事現場、発注者や元請との打合せなど、社員が社外で直接相手と向き合う場面も含めて対応を考える必要があります。

  • 施主や元請も「顧客等」になり得る

    カスタマーハラスメントという名称から、一般消費者からの迷惑行為だけを想定すると対応範囲を狭くし過ぎます。

    厚生労働省の指針でいう「顧客等」には、顧客だけでなく、取引の相手方、取引先の担当者、企業間で契約交渉を行う担当者なども含まれます。そのため建設業では、契約関係や業務実態に応じて、施主や発注者、元請・取引先の担当者などからの言動も対象になり得ます(指針の「顧客等」の例示は限定列挙ではなく、建設業固有の当事者を名指しした記載ではありませんが、取引の相手方・契約交渉担当者等の定義に照らした敷衍です)。工事現場や顧客宅、取引先事務所なども、社員が業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれ得ます。電話やSNS等での言動も対象です。

    なお、ここで保護対象となる「労働者」は正社員に限らず、パートタイム労働者、契約社員等を含む、事業主が雇用する労働者すべてを指します。

    ただし、相手から厳しい指摘を受けたからといって、すべてがカスハラになるわけではありません。職場におけるカスタマーハラスメントは、次の3要素をすべて満たすものとされています。

    ・顧客等による言動であること

    ・業務の性質その他の事情に照らし、社会通念上許容される範囲を超えた言動であること

    ・その言動によって労働者の就業環境が害されること

    例えば、契約内容を著しく超える要求、不当な損害賠償要求、暴行や脅迫、人格を否定する暴言、大声による威圧、執拗な責め立て、長時間の居座りなどは、社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例として示されています。ただし、個別事案では言動の目的、経緯、社員側の問題行動の有無や程度、業務内容、頻度や継続性、相手との関係性などを総合的に見て判断します。

    ここは経営者が誤解しやすい点です。正当な品質不良の指摘や契約上の是正要求まで「カスハラだから対応しない」と扱うことは適切ではありません。社員側の不適切な対応が原因や背景となっている可能性も含め、要求内容の相当性と、相手の手段・態様を分けて確認する必要があります。

  • 社員を一人にしない対応基準を決める

    義務化への対応で重要なのは、「カスハラは禁止」と掲示することだけではありません。

    厚生労働省のリーフレットでは、事業主が必ず講じなければならない措置を10項目に整理しています。①労働者を保護する方針の明確化・周知、②カスハラの内容と事前に定めた対処内容の周知、③相談窓口の設定・周知、④相談窓口が適切に対応できる体制、⑤事実関係の迅速かつ正確な確認、⑥被害者への配慮、⑦再発防止、⑧特に悪質な事案への対処方針と体制整備、⑨相談者等のプライバシー保護、⑩相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知です。

    この10の措置を現場運用に落とし込むため、建設会社では、判断基準、上司への即時報告、可能な限り単独対応を避ける基準、管理監督者や経営者への対応交代、やり取りの記録、警察・弁護士へつなぐ基準、被害社員への配慮、相談等を理由とした不利益取扱いをしないルールの8項目を具体化しておくと実務的です。これら8項目は法令上の10措置を置き換えるものではなく、10措置を現場で機能させるための実務整理です。

    例えば、暴言が始まってから現場担当者自身に「これはカスハラかどうか」を最終判断させる運用では対応が遅れます。「人格否定の発言が続く」「脅迫と受け取れる発言がある」「同じ要求が繰り返される」「長時間拘束される」といった状況で上司へ報告し、誰が対応を引き継ぐのかまで事前に決めておく方が実務的です。指針も、管理監督者への即時報告、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、必要に応じた管理監督者への交代を対処例として示しています。

    想定例として、施主から現場担当者への人格否定の発言が繰り返された場合、担当者個人でカスハラか否かを確定させてから報告するのではなく、あらかじめ定めた基準に従って現場責任者へ報告し、その後の窓口を交代する運用が考えられます。発言日時や内容を記録し、暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動に発展した場合は、警察への通報や、必要に応じて弁護士への相談につなげます。

    録音や録画についても整理が必要です。録音・録画そのものがすべての事業主に一律で義務付けられているわけではなく、あらかじめ定める対処内容の一例として指針に示されています。また、事実確認の際に客観的証拠として確認することも例示されています。利用する場合は、個人情報保護法等を踏まえ、社内運用として保存方法、閲覧権限、保存期間などを定めておくことが重要です。

    十分な説明後も要求が繰り返される場合の対応終了、暴行・傷害・脅迫など犯罪に該当し得る言動への警察通報、法的手続が必要な場合の弁護士への相談なども指針の対処例です。どの段階で現場担当者の判断から会社判断へ切り替えるのかを先に決めておくことで、社員個人に判断責任を集中させにくくなります。

  • 記録・再発防止・費用まで決める

    相談があった後は、事実関係を迅速かつ正確に確認する必要があります。カスハラが生じた事実を確認できた場合には、被害社員への配慮を適切に行います。また、再発防止措置については、カスハラが生じた事実を確認できなかった場合でも、同様に講じることが指針で求められています。

    被害社員への配慮としては、事案の内容や状況に応じて、管理監督者等が代わって対応する、被害者と行為者を引き離す、対応担当者を変更する、複数人で対応する、メンタルヘルス不調への相談対応を行うといった措置が例示されています。

    さらに、特に悪質と考えられる事案については、対処方針を事前に定め、実際にその対処を行える体制を整備することが必要です。指針では、犯罪に該当し得る言動の警察通報、警告文の発出、法令の制限内でのサービス提供停止、施設への出入り禁止、仮処分命令の申立てなどが例示されています。これらをすべての事案で行うという意味ではなく、自社の業務や事案の程度に応じた基準を決める必要があります。

    相談者等のプライバシーを保護するための措置も必要です。また、カスハラについて相談したこと等を理由として解雇その他の不利益な取扱いをしない旨を定め、社員へ周知・啓発することが求められています。

    建設業では、自社が被害を受ける側だけとは限りません。自社の労働者が取引先等の他社の労働者にカスハラを行った場合、その取引先等の事業主から事実確認等への協力を求められたときは、必要な協力に応じるよう努めることが求められています。元請・下請・協力会社など複数の会社が関わる建設業では、自社が確認を求められる側になる場合も想定して社内ルールを整えておく必要があります。

    経営面では、保険で対象となり得る費用と会社が負担する費用を混同しないことも必要です。外部弁護士への相談費用、社員の休業等に伴う代替人員費、採用・教育費、取引停止による売上減少、行政対応費用、ブランド毀損への対応費用などは、任意労災や雇用慣行賠償責任補償等で当然に対象となるものではありません。補償対象となる損害や費用は、契約内容、特約、事故状況等によって異なるため、実際の契約内容を個別に確認する必要があります。

    執筆者の意見

    この義務化は、カスハラの定義を社内規程に書くだけではなく、相談窓口を定め、発生時に社員を誰へつなぎ、誰が対応を引き継ぐのかまで会社として決めておく必要があることを意味します。

    実務上は、現場担当者が相手との関係悪化を恐れて抱え込まないよう、一定の状況になった時点で上司が判断を引き取れる運用が問われます。

    この指針は、正当な申入れとカスハラを区別しながら、判断が微妙な段階でも広く相談に対応することを求めています。

    弊社は、建設会社のカスハラ対策では「どこから上司対応に切り替えるか」「何を記録するか」「どこで警察・弁護士につなぐか」を社内で共有できる状態にしておくことが、社員保護と取引先対応を両立するうえで重要だと考えます。


    前田朗伸(まえだ あきのぶ)

    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)

    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定

    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。

    あわせて確認しておきたい記事

    「中小建設業のOJT設計」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-43/

    「若手定着に効くキャリアの見える化」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-36/

    「若手定着を崩す入社初期3か月の受入れ不全」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-33/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1.施主や元請担当者からの暴言もカスタマーハラスメントになりますか?

    A.該当する可能性があります。厚生労働省の指針では「顧客等」に顧客だけでなく取引の相手方や取引先担当者等も含まれます。ただし、相手が施主や元請であるだけでカスハラになるわけではありません。言動が社会通念上許容される範囲を超え、それによって社員の就業環境が害されるなど、指針の3要件に沿って個別に判断します。

    Q2.施主・発注者・元請・取引先等との通話を録音する仕組みは必ず導入しなければなりませんか?

    A.録音・録画自体が一律の法的義務とされているわけではありません。指針では、カスハラへの対処内容の一例として顧客等とのやり取りの録音・録画が示されています。導入する場合は、個人情報保護法等を踏まえ、社内運用として保存方法、閲覧権限、保存期間などを整理しておくことが重要です。

    Q3.カスハラかどうか判断できない相談でも会社は対応する必要がありますか?

    A.相談窓口では、現実にカスハラが発生している場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、該当するか判断が微妙な場合も広く相談に対応することが求められています。「カスハラと確定してから相談する」という運用にはしないことが重要です。

    参考

    厚生労働省『2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!』(2026年8月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/content/001662630.pdf

    厚生労働省『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(2026年8月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

    最終確認日

    2026年08月08日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

お見積り・資料請求はこちら

ご相談はこちら

0120-156-136

営業時間 平日9時~18時(土・日・祝除く)

ページトップ

取扱保険会社
AIG損保
三井住友海上
セコム損保
メットライフ生命
エヌエヌ生命
大同生命
地域に密着した”顔”の見えるご提案
東京・横浜・川崎・千葉・埼玉対応
0120-156-136
営業時間 平日9時~18時(土・日・祝除く)

このホームページの情報は、当該商品のパンフレットの付属資料としてご覧いただくものです。
ご検討にあたっては、必ず当該代理店より説明を受け当該商品のパンフレットをあわせてご覧ください。
弊社の損害保険募集人は、保険契約の締結の代理権を有しています。
生命保険募集人はお客様と生命保険会社の保険契約締結の媒介を行う者で、
保険契約締結の代理権はありません。
また、ご契約に際しては、事前に、重要事項説明書(契約概要・注意喚起情報)を必ずご覧ください。
承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を禁じます。

CopyrightAll Rights Reserved.