
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:8月13日の千葉豪雨では、千葉市が8月17日13時時点で道路上の放置車両を約2,500台確認しています。JAFのテストではSUVでも水深60cmを時速30kmで走行すると、わずか10mでエンジンが停止しました。
・お読みいただきたい方:社用車や工事車両を保有し、豪雨時にも現場への移動が発生する建設会社の経営者・管理者
・リスクへの備え:冠水路には進入しないことを社内ルールにし、迂回ルート、脱出用ハンマー、水没後の連絡手順、車両保険の補償内容まで平時に確認
・この記事でわかること:冠水路の危険性、運転者に伝えたい行動、水没後の初動、保険と自己負担の4点
SUVでも冠水路では止まる
2026年8月13日の千葉豪雨では、道路上に多数の車両が残されました。千葉市は8月17日13時時点で、大雨に伴う放置車両を約2,500台確認したと公表しています。
冠水した道路を前にすると、「前の車が通れた」「SUVだから車高が高い」といった判断をしやすくなります。しかし、車種だけで安全性を判断することはできません。
JAFが冠水したアンダーパスを想定して行った走行テストでは、水深60cmの場合、セダンは時速10kmで走行し、31m地点でエンジンが停止しました。
SUVは水深60cmでも時速10kmでは走り切りましたが、時速30kmでは大量の水がエンジン下部から入り込み、わずか10mでエンジンが停止しています。車体が一瞬浮き上がり、ハンドルを取られる状況も確認されました。
さらにJAFは2024年、EV、ハイブリッド車、ガソリン車を使ったテストも行っています。
水深30cmを時速30kmで走行したEVはコースを走り切ったものの、車体下部のアンダーカバーが外れ、ボンネット内部への浸水が確認されました。水深60cmを時速40kmで走行したハイブリッド車もコース自体は走り切りましたが、その後エンジンが停止し、複数の警告灯が点灯しています。
走り切れた=損傷がない、ではありません。
実際の冠水路は、水深だけでなく路面の状態も見えません。マンホールのふたが外れている可能性や、側溝などの危険もあります。「このくらいなら行ける」という現場判断に任せないことが重要です。
冠水時に決めたい4つの社内ルール
建設会社では、現場への移動、資材の運搬、緊急対応などで、豪雨時にも社用車で移動する必要が生じることがあります。だからこそ、冠水路に進入するかどうかを運転者本人の判断だけに委ねず、会社として行動基準を決めておく必要があります。
・道路が冠水していたら原則として進入せず、迂回する
・国土交通省関東地方整備局などの道路冠水注意箇所マップを確認し、豪雨時の代替ルートをあらかじめ決める
・脱出用ハンマーは運転席から手が届く位置に固定し、使用方法と破砕する窓の位置も確認する
・車が動かなくなり水位が上昇した場合は車両より人命を優先し、ドア、窓、必要に応じて脱出用ハンマーを使って速やかな脱出を図る
道路冠水注意箇所マップは有効な事前確認手段ですが、掲載箇所以外で冠水しないという意味ではありません。関東地方整備局も、掲載箇所以外で冠水するおそれがあるため、現地の道路状況に注意するよう案内しています。
脱出用ハンマーについて国土交通省は、手の届くところに固定し、あらかじめ使用方法を確認するよう案内しています。また、脱出時は側面または後面のガラスを割ることとされており、前面の窓ガラスは割ってもひびが入るだけで脱出できないと注意喚起しています。
車両が浸水・冠水した場合は、水が引いたあとも自己判断でエンジンをかけないことが重要です。国土交通省は、外観上は問題がなくても、感電や電気系統のショートによる車両火災などのおそれがあるとして注意を促しています。
特にEVやハイブリッド車は高電圧バッテリーを搭載しているため、むやみに触れず、販売店や整備工場などへ相談する必要があります。
事故報告のための写真撮影も、人の安全より優先するものではありません。冠水中の車両へ戻って撮影するのではなく、安全が確保された範囲で記録する運用にしておくことが重要です。
車両保険と自己負担を確認する
豪雨や洪水による車両の水没損害は、自動車保険に車両保険を付けている場合、契約内容や事故状況等に応じて補償対象となることがあります。
日本損害保険協会も、車両保険で対象となる偶然な事故の例として台風、洪水、高潮などを挙げています。ただし、車両保険には補償範囲を限定した契約タイプもあるため、実際の支払可否は契約内容や事故状況等によって異なります。
また、「車両保険があるから水没しても全額戻る」とは限りません。
実際の支払額は、車両保険金額、免責金額、損害状況、修理可能性などによって異なります。レッカー費用や代替車両に関する費用についても、契約している補償や特約、サービスの内容などを確認する必要があります。
ノンフリート契約について、日本損害保険協会は、台風、洪水、高潮などによって車両保険の保険金を受け取った場合などを「1等級ダウン事故」として説明しています。1事故につき翌年の等級が1つ下がり、1年間は有事故契約者の割引率が適用される取扱いがあります。
一方、フリート契約は、ノンフリート契約のように自動車1台単位で等級を適用する仕組みとは異なります。保険料の割増引は契約者単位で適用され、契約している自動車全体について、契約者が支払った保険料と保険会社が支払った保険金との割合である損害率などをもとに決定されます。実際の保険料への影響は契約条件等によって異なるため、自社がどちらの料率制度に該当するかを確認する必要があります。
車両保険だけでは、工期遅延に伴う追加費用や売上減少まで当然に対象になるものではありません。代替車両の調達費用などについても、契約している補償・特約・サービスによって対象範囲が異なります。
建設会社の場合、1台の車が水没することで、その車の修理費だけではなく、現場への移動、工具や資材の運搬、代替車両の確保などに影響が広がる可能性があります。保険金額だけを見るのではなく、「事故後に業務をどう継続するか」まで確認しておくことが重要です。
この千葉豪雨で約2,500台の放置車両が確認された事実は、豪雨による道路冠水が車両そのものの損害だけでなく、移動や業務継続にも大きな影響を及ぼし得ることを示しています。
実務上は、保険証券を確認するだけでなく、冠水路に進入しない運転ルール、迂回ルート、脱出用ハンマー、水没後の連絡手順まで平時に決めておくことが問われます。
弊社は、建設会社の自動車リスクは「保険で直せるか」だけでなく、「車を止めない運用」と「人を危険にさらさない判断」をセットで整えることが重要だと考えます。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
あわせて確認しておきたい記事
「高所作業車事故と会社の備え」
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「ガス管工事の引火事故で見落としやすい自己負担」
https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-44/
よくある質問(FAQ)
A.安全と言い切れる水深はありません。JAFのテストでは一定条件下で走行できたケースもありますが、実際の道路では水深や路面状況が分からず、マンホールや側溝などが見えないこともあります。冠水路には安易に進入せず、可能な限り迂回することが基本です。
A.避けてください。国土交通省は、浸水・冠水した車両について自分でエンジンをかけないよう注意喚起しています。感電、電気系統のショート、車両火災などのおそれがあります。特にEVやハイブリッド車は高電圧バッテリーを搭載しているため、むやみに触れず販売店や整備工場などへ相談してください。
A.一律ではなく、契約方式や契約内容等の確認が必要です。ノンフリート契約では、台風、洪水、高潮などによる車両保険金の受取りが1等級ダウン事故となる場合があります。一方、フリート契約は自動車1台ごとの等級制度ではなく、契約者単位で割増引を適用する別の料率制度です。実際の保険料への影響は契約条件や事故状況等によって異なるため確認が必要です。
参考
千葉市『道路上の放置車両の対応状況』(2026年8月閲覧)
https://www.city.chiba.jp/kensetsu/doboku/dobokukanri/20260813ooame_houchitaiou.html
一般社団法人日本自動車連盟(JAF)『冠水路走行テスト(JAFユーザーテスト)』(2026年8月閲覧)
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/disaster/waterway-driving
一般社団法人日本自動車連盟(JAF)『冠水路走行テスト ~電気自動車(EV)・ハイブリッド車(HV)・ガソリン車で検証~』(2026年8月閲覧)
https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/user-test/disaster/flood-driving
国土交通省 関東地方整備局『関東甲信地域における道路冠水注意箇所マップ』(2026年8月閲覧)
https://www.ktr.mlit.go.jp/road/bousai/road_bousai00000001.html
国土交通省『いざというときのために、緊急脱出用ハンマーを備え付けましょう!』(2026年8月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/carinf/rcl/carsafety_sub/carsafety023.html
国土交通省『台風の前に車両からの脱出手順の確認を!―水没車両からの脱出手順と脱出用ハンマー搭載のお願いについて―』(2026年8月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003793.html
国土交通省『浸水・冠水被害を受けた車両のユーザーの方へ』(2026年8月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr09_000100.html
一般社団法人日本損害保険協会『損害保険Q&A くるまの保険 問15 車両保険は、どのような保険ですか。』(2026年8月閲覧)
https://soudanguide.sonpo.or.jp/car/q015.html
一般社団法人日本損害保険協会『損害保険Q&A くるまの保険 問23 自動車保険の「等級」について教えてください。』(2026年8月閲覧)
https://soudanguide.sonpo.or.jp/car/q023.html
一般社団法人日本損害保険協会『損害保険Q&A くるまの保険 問22 自動車保険の「フリート契約者料率制度」について教えてください。』(2026年8月閲覧)
https://soudanguide.sonpo.or.jp/car/q022.html
最終確認日
2026年08月21日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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