工事で車を傷つけたら修理費全額?

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時価を超える修理費の負担整理

工事で車を傷つけたら修理費全額?

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:工事で第三者の車を傷つけても、修理費全額がそのまま法律上の賠償額になるとは限りません。車両時価、その他の損害、修理費超過部分への契約上の対応を分けて確認します。

    ・お読みいただきたい方:住宅・建物工事などで、施主や近隣住民など第三者の車両を損傷するリスクがある建設会社の経営者

    ・リスクへの備え:作業前に車両を落下範囲から移動し、事故後は修理見積だけでなく車両時価の根拠、法律上の損害額、修理費超過部分の補償条件まで確認します。

    ・この記事で分かること:修理費、法律上の損害額、保険契約上の補償という3つの判断軸

  • 工具落下で車を傷つけた実例

    建物の改修工事中、作業者が使用していた工具を落とし、現場付近に駐車されていた施主所有の乗用車を損傷する事故がありました。

    車は修理できる状態でしたが、年式が古く、事故時点の時価は20万円台。一方、修理には40万円台の費用が見込まれました。

    ※本事例は実際の事故対応をもとに、関係者が特定されないよう時期・金額・状況など一部の情報を調整しています。

    一見すると「壊した車を元に戻すのだから、40万円台の修理費を工事会社が負担する事故」と考えやすいところです。しかし、物損事故では、実際の修理費と法律上の損害賠償額が必ず一致するわけではありません。

    故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した場合は、民法709条による不法行為責任が問題になります。また、自社従業員が事業の執行について第三者に損害を与えた場合には、民法715条による使用者責任が問題となる可能性があります。

    下請事業者などが起こした事故では、自社従業員の場合とは責任関係が異なります。民法716条では、注文者は原則として請負人がその仕事について第三者に与えた損害を賠償する責任を負わない一方、注文や指図について注文者に過失があった場合は例外とされています。ただし、実際の責任関係は716条だけで決まるものではなく、契約関係、指揮監督の実態、事故状況などを踏まえて個別に確認する必要があります。

    事故の核心は「工具を落としたこと」だけではありません。作業位置の下やその周辺に第三者の車がある状態で工事を始めていたことも、経営上のリスク管理として確認すべき点です。

    工具に適した落下防止措置を講じることに加え、第三者の車を落下範囲に残したまま作業を始めないことが重要です。車両移動が難しい場合は、作業位置や工程の変更、適切な養生・防護など、工具等が落下しても第三者財物へ損害が及ばない方法を作業前に検討する必要があります。

  • 修理費が時価を超える「経済的全損」

    この事故を理解するうえで重要なのが「経済的全損」という考え方です。

    車そのものは物理的に修理できても、修理費が事故時点の車両価値に比べて高額となる場合があります。この場合、「車を物理的に修理できるか」と「修理費全額が法律上の損害として認められるか」は別の問題です。

    最高裁判所第二小法廷は昭和49年4月15日判決で、中古車の事故時の取引価格について、原則として同一の車種・年式・型で、使用状態や走行距離なども同程度の車を中古車市場で取得するために必要な価額によって定めるべきとしています。また、特段の事情がない限り、税務や企業会計上の減価償却方法だけで事故時の取引価格を決めることは適切ではないとの判断を示しています。

    この最高裁判決自体は交通事故についての判例ですが、中古車が損傷した場合の事故時取引価格をどのように評価するかという判断枠組みを示しており、工事事故で第三者の車両を損傷した場合に時価を検討する際にも参考になります。

    そのため、今回のように時価が20万円台、修理費が40万円台というケースで、「修理見積が40万円台だから、その全額が当然に法律上の賠償額になる」とは限りません。

    反対に、会社側が「古い車だから価値はほとんどない」と判断するのも適切ではありません。「古い車だから安い」と減価償却だけで時価を決めるのも危険です。

    車種、年式、型、走行距離、使用状態などを踏まえ、事故時点で同程度の車を中古車市場から取得するとすれば、どの程度の価格になるのかを確認する必要があります。

    ここでもう一つ注意が必要です。経済的全損と整理される場合でも、「法律上の損害=車両時価だけ」と機械的に判断できるわけではありません。最高裁判決では、物理的・経済的に修理不能となった場合のほか、一定の条件のもとで買替えが社会通念上相当と認められる場合についても判断しています。事故状況によって他の損害項目が問題となることもあるため、時価と修理費の比較だけで会社の最終的な負担額を決めないことが重要です。

    つまり、修理見積と車両時価は重要な判断材料ですが、それだけで最終的な法律上の損害額が決まるわけではありません。「修理にはいくらかかるのか」「事故時の車両価値はいくらか」「そのほか事故との相当因果関係が認められる損害があるか」を分けて整理する必要があります。

  • 賠償額と保険の差額を分けて確認

    建設会社が事業中に第三者の財物を損壊した場合、損害賠償金や争訟費用などが経営上の負担になる可能性があります。日本損害保険協会も、事業を遂行する中で顧客や取引先など第三者へ対人・対物事故を生じさせ、損害賠償請求を受けた場合に生じる損害賠償金や争訟費用等を、企業の賠償責任リスクとして挙げています。

    第三者賠償責任保険では、一般に工事中の対人・対物事故について、被保険者が負担する法律上の損害賠償責任などが補償対象となる可能性があります。ただし、実際の補償範囲は契約内容、特約、事故状況、被保険者の範囲、対象財物、免責金額、支払限度額等によって異なります。

    今回の事例では、法律上の損害賠償責任として整理される部分とは別に、車両時価を超える修理費部分に対応する費用補償が契約に付帯していました。差額部分については、契約上の条件を確認したうえで事故処理が行われています。

    この部分は本事例における個別の契約・事故処理であり、すべての第三者賠償責任保険に共通する取扱いではありません。修理費超過部分への対応は、法律上の損害賠償責任そのものとは分けて確認する必要があります。補償名称、対象となる費用、支払条件、免責金額、支払限度額等は、契約内容・特約・事故状況によって異なります。

    経営者が事故発生後に確認したい項目は次の5つです。

    ・誰が作業していたのか、自社従業員・下請事業者など事故当事者と被保険者の範囲

    ・事故直後の写真、工具、作業位置、車両位置など事故状況を確認できる資料

    ・修理見積だけでなく、車種・年式・走行距離・使用状態など車両時価の判断材料

    ・法律上の損害賠償責任として整理される額と、修理費超過部分に対応する費用補償の有無

    ・免責金額、支払限度額、対象となる財物など契約上の条件

    特に注意したいのは、被害者との関係を考えて、会社が独自に修理費全額などの支払いを約束してしまうケースです。会社が約束した金額が、そのまま法律上の損害賠償額や保険の対象額になるとは限りません。示談や支払いの約束をする前に、保険会社または取扱代理店へ事故を報告し、責任関係と契約上の取扱いを確認する必要があります。

    また、事故によって発生した工期遅延に伴う追加費用や売上減少などは、第三者賠償責任保険で当然に対象となるものではありません。対象となる損害や費用は契約内容、特約、事故状況によって異なるため、法律上の損害賠償金や事故対応費用とは分けて確認が必要です。

    執筆者の意見

    この事例は、車を修理できるかどうかと、修理費全額が法律上の損害になるかどうかが別問題であることを意味します。

    実務上は、修理見積だけを確認するのではなく、車両時価の根拠、その他の損害項目、契約上の差額補償に加え、誰が事故を起こしたか、被害物の扱い、免責金額や支払限度額まで証券単位で確認することが問われます。

    弊社は、建設会社の物損事故では「修理にいくらかかるか」だけでなく、「法律上どこまで負担するのか」と「その外側を契約でどこまで扱えるのか」を分けて把握することが経営判断の基本だと考えます。


    前田朗伸(まえだ あきのぶ)

    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)

    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定

    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。

    あわせて確認しておきたい記事

    「高所作業の資材落下事故と建設業の賠償リスク」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-25/

    「新築配管漏水で負担調整がこじれる理由」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-38/

    「引渡し後の戸棚落下事故と負担整理」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-32/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1.車の修理費が時価を超えたら、時価分だけ払えば終わりですか?

    必ずしもそうとは限りません。修理費と車両時価の関係は重要ですが、法律上の損害が車両時価だけに限られるとは限りません。事故状況によって他の損害項目が問題となる場合もあります。また、修理費超過部分に対応する費用補償が契約にあるかどうかは別に確認する必要があります。会社だけで支払額を決めず、責任関係、損害項目、契約内容を確認することが重要です。

    Q2.古い車の時価は、会社の減価償却と同じ考え方ですか?

    同じとは限りません。最高裁判所は、中古車の事故時取引価格について、原則として同一の車種・年式・型で、使用状態や走行距離等も同程度の車を中古車市場で取得するために必要な価額を基準とする考え方を示しています。特段の事情がない限り、税務・企業会計上の減価償却方法だけで事故時価格を決めるべきではないとしています。

    Q3.第三者賠償責任保険に入っていれば、時価を超えた修理費も対象になりますか?

    差額まで自動的に対象になるわけではありません。法律上の損害賠償責任を対象とする部分と、時価を超える修理費などに対応する費用補償は分けて確認する必要があります。今回の事例では差額部分に対応する費用補償がありましたが、すべての契約に同じ補償が付帯しているものではありません。契約内容、特約、支払限度額、免責金額、対象財物、事故状況などを確認してください。

    参考

    デジタル庁 e-Gov法令検索『民法』(2026年8月閲覧)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

    最高裁判所第二小法廷『昭和49年4月15日判決(昭和48年(オ)第349号・民集28巻3号385頁)』(2026年8月閲覧)
    https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52109.pdf

    日本損害保険協会『賠償責任のリスク』(2026年8月閲覧)
    https://www.sonpo.or.jp/sme_insurance/liability/

    最終確認日

    2026年08月08日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

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