
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:主治医の診断書だけで復職を決めず、本人、上司、人事・総務担当者、産業医等、経営者の役割を分け、休職開始から復職後まで一貫して対応します。
・お読みいただきたい方:メンタル不調による休職者への対応を、個々の上司や経営者の判断に任せている建設会社。
・リスクへの備え:相談窓口、休職開始時の説明、復職判定の手順、危険業務の制限、復職後面談、健康情報の共有範囲を社内ルールとして文書化します。
・この記事で分かること:職場復帰支援の5段階と、会社が事前に決めるべき8つの実務項目。
休職開始から復職までの5段階
私傷病による休職制度は、法令で全国一律の内容が定められた制度ではありません。休職期間、期間満了時の取扱い、復職の要件、診断書の提出方法などは会社によって異なるため、最初に自社の就業規則、休職規程、労働契約を確認します。
厚生労働省の手引きでは、職場復帰支援を、①病気休業開始および休業中のケア、②主治医による職場復帰可能の判断、③職場復帰の可否判断と職場復帰支援プランの作成、④事業者による最終的な職場復帰の決定、⑤職場復帰後のフォローアップ、という5段階に分けています。
この5段階を実際に運用するため、会社が事前に決めるべき8つの実務項目は次のとおりです。
・相談や不調の申出を受ける窓口
・休職開始時に本人へ説明する事項
・診断書や主治医意見書などの提出書類
・復職可否を確認する手順と最終決定者
・職場復帰支援プランの作成方法
・試し出勤、短時間勤務、危険業務等の制限
・復職後面談と就業制限を見直す時期
・健康情報の取扱者と社内で共有する範囲
不調の申出窓口は、直属上司だけに限定せず、人事・総務担当者や経営者にも直接相談できるようにします。上司との関係が不調の一因となっている場合、直属上司だけを窓口にすると、本人が相談できない可能性があるためです。
申出を受けた上司は、自ら病名や治療内容を判断せず、人事・総務担当者や産業保健スタッフへ連携します。直属上司が病名や服薬内容を詳しく聞き取る運用は避けます。
休職開始時には、休職期間、期間満了日、賃金の取扱い、社会保険料の本人負担分、傷病手当金等の手続き、会社との連絡担当者・方法・頻度、診断書の提出時期、復職申請の手順を本人へ書面で伝えます。口頭説明だけでは、療養中の本人が内容を正確に記憶できない可能性があります。
役割分担として、本人は診断書の提出と復職意思の申出を行い、直属上司は担当業務、勤務状況、危険作業、現場で対応できる配慮を整理します。人事・総務担当者は休職手続き、本人との連絡、書類管理、関係者間の調整を担当します。産業医等は、主治医の意見と実際の業務内容を照合し、就業上の措置について意見を示します。経営者等の決定者は、これらの情報を踏まえて復職可否と就業上の配慮を決定します。
厚生労働省の手引きでは、会社全体の共通ルールを「職場復帰支援プログラム」、個々の休職者について復帰日や配慮内容を定めたものを「職場復帰支援プラン」と区別しています。休職者が出るたびに対応を考えるのではなく、先に共通ルールを定め、個別のケースごとにプランを作成する流れです。
常時使用する労働者が50人以上の事業場には、産業医の選任義務があります。常時50人未満で産業医の選任義務がない事業場では、人事・総務担当者や安全衛生推進者等を窓口とし、地域産業保健センターや都道府県産業保健総合支援センターなど、外部の産業保健資源の活用を検討します。社内担当者だけで医学的な判断を行わない体制が必要です。
診断書だけで復職を決めない
本人から復職の意思表示があったら、会社は主治医の診断書や意見書の提出を求めます。診断書には「復職可能」という結論だけでなく、勤務時間、残業、出張、運転、危険作業など、就業上必要な配慮について具体的な意見を記載してもらうことが重要です。
主治医は、日常生活における回復状況を中心に診ていることがあり、診断書の「復職可能」が、職場で必要な業務遂行能力の回復まで意味するとは限りません。
通勤できる状態と、危険業務を安全に行える状態は同じではありません。建設会社では、高所作業、車両運転、重機操作、電気作業、夜間作業、単独作業などを安全に行えるかを個別に確認します。
主治医へ意見を求める場合は、本人の同意を得たうえで、勤務時間、通勤方法、具体的な作業内容、危険作業の有無、出張、残業などの情報を伝えます。産業医等がいる場合は、主治医の意見と実際の職務内容を照合し、就業上の配慮について意見をまとめます。
復職可能と判断する場合は、職場復帰支援プランを作成します。プランには、復帰日、勤務時間、担当業務、残業・休日勤務の可否、出張、車両運転、危険作業の制限、通院への配慮、面談日、制限を見直す時期を記載します。
短時間勤務や業務軽減は、すべての復職者に同じ内容を適用するものではありません。本人の状態、主治医・産業医等の意見、就業規則、現場の安全性、会社が実際に対応できる範囲を踏まえて個別に決めます。実施する場合は、期間、勤務時間、賃金、対象業務、見直し日を明確にします。
正式な復職前に試し出勤や通勤訓練を行う場合は、主治医に療養上の支障がないことを確認し、産業医等を含めて目的と実施内容を検討します。対象者、期間、出退勤時間、勤怠上の扱い、賃金、交通費、事故発生時の対応を事前に定め、必要以上に長期間実施しないようにします。
会社が作業を指示する場合や、試し出勤中の作業が実質的な業務に当たる場合は、労働基準法等が適用される可能性があります。名称を「試し出勤」としていても、当然に無給でよいとは限らないため、社会保険労務士等への事前確認が必要です。
必要な情報を収集し、主治医・産業医等の意見、本人との面談結果、業務遂行能力、就業上の配慮の可否を確認したうえで、最終的な復職の決定は会社が行います。
ただし、会社が自由な裁量で復職を拒否できるという意味ではありません。復職可否は、労働契約上の職種限定の有無、元の業務や配置可能な業務の遂行可能性、就業上の配慮の可否、主治医・産業医等の意見を踏まえて個別に判断します。
現場の受入れが難しいこと、配置先がすぐに決まらないこと、休職期間が満了することだけで、当然に復職不可、退職または解雇と扱えるわけではありません。
中央労働委員会の資料では、裁判例を踏まえ、現在の業務を十分に行えない場合でも、現実に配置可能な他の業務を行うことができ、本人がその業務での復職を希望しているときは、配置可能性を検討する必要があると整理されています。休職期間満了時の判断や職務変更については、労働契約の内容と実際の配置可能性を確認し、判断前に弁護士や社会保険労務士へ相談します。
精神障害等により長期にわたり職業生活に相当の制限を受けるなど、障害者雇用促進法上の障害者に該当する場合、事業主には、本人と必要な配慮内容を話し合い、過重な負担とならない範囲で合理的配慮を提供する義務があります。すべてのメンタル不調者が同法の対象になるわけではないため、本人の状態や職務上の支障を個別に確認します。
復職の決定結果、就業上の配慮、制限内容、見直し時期は、本人へ書面で通知します。直属上司には、実際に行うべき配慮を必要な範囲で伝えます。
復職後の面談と情報管理
復職支援は、本人が出勤を再開した時点で終わるものではありません。復職後は、勤務状況、疲労の程度、遅刻・欠勤、業務遂行状況、通院状況、再発の兆候、職場復帰支援プランの実施状況を確認します。
面談時期に一律の法定基準はありませんが、社内運用の例として、復職後1週間、2週間、1か月の時点で面談し、その後は状態に応じて月1回などの間隔を設定する方法があります。面談担当者、記録様式、就業制限を緩和・継続する判断者も事前に決めておきます。
復職者の業務を上司や同僚が引き受ける場合は、周囲の残業時間、担当件数、疲労、安全面への影響も確認します。本人への配慮によって、別の社員に過度な負担が移れば、新たな不調や労働災害につながるおそれがあります。
健康情報は、業務上必要な範囲を超えて共有しません。直属上司に伝えるのは、「残業をさせない」「車両運転を制限する」「高所作業を担当させない」「定期的な休憩が必要」など、現場で実施する就業上の措置が中心です。
病名、服薬内容、診察内容などの詳細な医学情報を、上司や人事・総務担当者へ広く共有してはいけません。産業医、保健師等の産業保健スタッフがいる場合は、原則として産業保健スタッフが詳細情報を取り扱い、人事・総務担当者や上司には、就業上の措置に必要な範囲へ整理・加工した情報を共有します。
産業保健スタッフがいない小規模事業場では、人事・総務担当者が自由に詳細情報を取得するのではなく、健康情報取扱規程で、取扱者、権限、取得する情報、利用目的、共有先を限定します。
健康情報は、その多くが要配慮個人情報に該当する機微な情報です。会社の取扱規程には、①取扱目的と取扱方法、②取扱者・権限・取り扱う情報の範囲、③本人への通知と同意取得の方法、④適正な管理方法、⑤本人からの開示・訂正・利用停止等への対応、⑥第三者提供、⑦事業承継や組織変更時の情報の引継ぎ、⑧苦情処理、⑨労働者への周知方法を定めます。
主治医から追加情報を得る場合や、家族と連絡を取る場合も、法令上の例外に該当する場合を除き、原則として本人の同意を確認します。健康情報の取扱いに同意しないことだけを理由として、不利益な取扱いを行わないことも必要です。
休職・復職に伴う賃金、社会保険料、診断書取得費、試し出勤時の賃金、代替要員の人件費については、就業規則、賃金規程、労働契約に基づく取扱いを確認します。
休職中の賃金、代替要員費、復職者の業務軽減に伴う追加人件費、売上減少などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。補償対象は、契約内容、特約、労災認定の有無、請求内容、事故状況等によって異なるため、個別の確認が必要です。
休職期間満了時の取扱い、復職を認めない場合の手続き、配置転換、短時間勤務中の賃金計算、退職・解雇の判断は、就業規則の文言だけで一律に決められない場合があります。産業医、社会保険労務士、弁護士等へ事前に確認することが必要です。
この5段階の手順は、主治医の診断書、産業医等の意見、現場の業務情報を分けて確認することを意味します。実務上は、通勤できる状態と、高所作業、運転、重機操作、単独作業を安全に行える状態を同一視しない判断が問われます。弊社は、相談窓口、提出書類、判定手順、復職後面談、健康情報の共有範囲まで事前に文書化することが、本人と会社の双方を守ると考えます。実務上は、本人への配慮だけでなく、業務を引き受ける上司や同僚への負荷確認も欠かせません。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
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よくある質問(FAQ)
A.診断書だけで自動的に復職が決まるわけではありません。主治医の意見、産業医等の医学的な確認、本人の業務遂行能力、担当業務の危険性、就業上の配慮の可否を確認し、会社が最終的に判断します。ただし、会社が自由な裁量で拒否できるわけではなく、労働契約や関係法令上の制約を踏まえた個別判断が必要です。
A.判断根拠、追加で必要な確認事項、再判定の時期を本人へ具体的に説明します。「現場に受入れ余地がない」「休職期間が満了した」と伝えるだけでは不十分です。休職期間満了だけを理由に、当然に退職または解雇と扱えるわけではありません。配置可能な他の業務や就業上の配慮も検討し、判断前に弁護士や社会保険労務士へ確認します。
A.常時50人未満で産業医の選任義務がない事業場では、人事・総務担当者、安全衛生推進者等が必要な情報を整理し、経営者等が社内の最終決定を行います。ただし、社内担当者だけで医学的な判断を行うことは避け、本人の同意を得て主治医と連携し、地域産業保健センター、都道府県産業保健総合支援センター、外部の産業医等の活用を検討します。
参考
中央労働委員会『傷病休職からの職場復帰時の職務変更』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/dl/jirei37.pdf
厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
厚生労働省『産業医について教えて下さい。』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/newpage_50446.html
独立行政法人労働者健康安全機構『地域窓口(地域産業保健センター)』(2026年8月閲覧)
https://www.johas.go.jp/occ-health/regional-occ-health-centers/
厚生労働省『雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/shougaisha_h25/index.html
厚生労働省『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf
最終確認日
2026年08月01日
※本記事は、一般的な職場復帰支援の考え方を説明するものです。実際の対応は、就業規則、労働契約、本人の状態、職務内容、事業場の体制等によって異なります。個別の復職判断、休職期間満了時の取扱い、配置転換、退職・解雇等については、産業医、社会保険労務士、弁護士等へご確認ください。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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