
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:下請業者が壊した事故でも、元請会社の保険を使うか、下請業者が費用を負担するかは、損害物、契約、被保険者の範囲によって変わります。
・お読みいただきたい方:新築工事や改修工事を元請として受注し、複数の下請業者と施工している建設会社の経営者
・リスクへの備え:下請契約の損害負担条項、保険の被保険者、免責金額、求償の取扱いを工事開始前に確認します。
・この記事で分かること:事故後に確認すべき7項目と元請・下請の負担判断
運搬中に施工済みの窓を破損
ある新築工事で、建築中の建物に設置されていた窓ガラスの傷が発見されました。
確認したところ、下請業者が建築資材を運搬していた際に、誤って資材を窓ガラスに接触させていたことが分かりました。発注者との工事請負契約を締結し、工事目的物の損害に関する保険へ加入していたのは元請会社でした。破損した窓ガラスは、完成引渡し前の工事目的物に含まれていました。
元請会社は保険会社へ事故報告を行い、損害状況と補償範囲の確認を受けました。その結果、窓ガラスの交換費用として認定された損害額から契約上の免責金額を控除して損害保険金が算定され、契約内容に基づく費用保険金も加算されました。
ただし、費用保険金の種類、計算方法、支払限度額、免責金額の適用は、契約内容・特約・事故状況によって異なります。
この事例で注意したいのは、下請業者のミスであっても、直ちに下請業者の賠償責任保険だけで処理するとは限らない点です。破損した物が施工中の工事目的物であれば、建設工事保険など、工事目的物の損害を対象とする保険で整理される場合があります。
事故後に確認する7項目
事故後は、誰のミスかを先に確定するのではなく、証拠、契約、保険を同時に確認します。
・現場全景と破損箇所の撮影
・接触した資材と作業動線の記録
・作業者と目撃者からの聞き取り
・破損品の保管
・修理見積書の取得
・修理着手前の保険会社への連絡
・元請契約、下請契約、保険証券の確認
発注者と元請会社の関係では、国土交通省の民間建設工事標準請負契約約款(甲)が参考になります。同約款第20条では、完成引渡しまでに工事目的物や工事材料などに生じた施工一般の損害は、一定の例外を除いて受注者が負担する構成です。第22条では、受注者が工事中の出来形部分や工事現場へ搬入した工事材料などに、火災保険または建設工事保険を付すことを定めています。
元請会社と下請業者の関係では、建設工事標準下請契約約款が参考になります。同約款第24条では、引渡し前の工事目的物や工事材料などに生じた一般的な損害は、元請会社の責めに帰すべき理由による場合を除き、下請業者が負担する構成です。
ただし、これらは標準的な契約モデルです。実際の負担関係は、個別の元請契約と下請契約、下請業者の担当範囲、事故原因、元請・下請のどちらに責任が帰属するか、保険契約によって異なります。標準約款の記載だけで、下請業者の最終負担額が自動的に決まるものではありません。
また、破損した物が既存建物や発注者の所有物であれば、第三者賠償責任保険などが候補になります。ただし、作業対象物や被保険者が管理していた財物は、普通保険約款や請負業者向けの特別約款等で補償対象外となる場合があります。既存物損壊、作業対象物損壊、管理財物損壊などを対象とする特約の有無を確認する必要があります。
保険金と最終負担は別に考える
一般的な建設工事保険では、認定された損害額から契約上の免責金額を控除して損害保険金を算定します。一方、残存物取片付け費用や臨時費用などの費用保険金は、損害保険金とは別に計算される契約があります。費用保険金への免責金額の適用、計算割合、支払限度額は、約款・特約によって異なります。
損害保険金の計算と、元請会社・下請業者の最終的な負担分担は別の問題です。
保険契約上の免責金額は、損害保険金の算定上、保険から支払われない部分として被保険者側に残ります。しかし、その自己負担額を元請会社と下請業者のどちらが最終的に負担するかは、下請契約、事故原因、当事者間の協議によって判断する必要があります。
下請業者が保険契約上の被保険者に含まれているかも重要です。下請業者が被保険者に含まれる場合や、求償権を行使しない取扱いがある場合は、保険会社から下請業者への請求可否が変わることがあります。
求償とは、保険会社が保険金を支払った後、事故の責任を負う者に対して、支払った金額の返還を求めることです。求償の可否は、被保険者の範囲、約款、特約、事故状況によって異なります。
修理費を下請代金から一方的に差し引く対応は避けなければなりません。国土交通省の建設業法令遵守ガイドラインでは、元請会社と下請業者の責任や費用負担を明確にしないまま、やり直し工事などの費用を一方的に下請代金から減額する行為は、建設業法違反となるおそれがあるとされています。本件でも、契約と事故原因を確認し、双方で協議した内容を記録に残す必要があります。
また、窓ガラスの復旧費用とは別に発生する工期遅延による追加人件費、他工程の手待ち費用、発注者への値引き、売上減少などは、建設工事保険で当然に対象となるものではありません。補償対象は契約内容・特約・事故状況によって異なるため、復旧費用と分けて確認が必要です。
この事故は、下請業者が施工中の工事目的物を損傷しても、発注者対応、保険金請求、下請業者との費用調整を分けて考える必要があることを意味します。
実務上は、元請会社が発注者との窓口となり、修理手配や保険会社との調整を進める一方、下請業者の過失だけで負担を決めず、下請契約、事故原因、被保険者の範囲、免責金額、求償の取扱いから最終的な費用負担を判断することが問われます。
弊社は、写真や破損品を保全し、修理着手前に保険会社へ連絡したうえで、証拠、契約、保険の確認と下請業者との負担協議を並行して行う運用が必要だと考えます。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
あわせて確認しておきたい記事
「高所作業の資材落下事故と建設業の賠償リスク」
https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-25/
「新築配管漏水で負担調整がこじれる理由」
https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-38/
「引渡し後の戸棚落下事故と負担整理」
https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-32/
よくある質問(FAQ)
A1.下請業者が壊したからといって、必ず下請業者の賠償責任保険だけで処理するわけではありません。破損した物が完成引渡し前の工事目的物であれば、元請会社側で手配した建設工事保険などで整理される場合があります。使用する保険は、損害物、引渡し時期、被保険者の範囲、下請契約、事故状況によって異なります。
A2.損害保険金は、通常、認定された損害額から契約上の免責金額を控除して算定されます。免責金額分は、損害保険金の算定上、保険から支払われない部分として被保険者側に残ります。費用保険金への免責金額の適用や計算方法は、約款・特約によって異なります。
また、その自己負担額を元請会社と下請業者のどちらが最終的に負担するかは、保険金の計算とは別の問題です。下請契約、事故原因、当事者間の協議により判断する必要があり、いずれか一方が当然に全額を負担するとは限りません。
A3.工期遅延費用、手待ち費用、売上減少などは、工事目的物の復旧費とは別の損害です。対象となるかは、遅延損害などを対象とする特約の有無を含め、契約内容・特約・事故状況ごとに確認する必要があります。
※本文中の事例は、関係者が特定されないよう一部の情報を調整しています。
参考
国土交通省『民間建設工事標準請負契約約款(甲)』(2026年7月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001499465.pdf
国土交通省『建設工事標準下請契約約款』(2026年7月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001329293.pdf
三井住友海上火災保険株式会社『建設工事保険』(2026年7月閲覧)
https://www.ms-ins.com/pdf/business/construction/kensetsu-kouji.pdf
国土交通省『建設業法令遵守ガイドライン(第12版)』(2026年7月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001979927.pdf
最終確認日
2026年07月25日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
ご相談はこちら
営業時間 平日9時~18時(土・日・祝除く)






当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を禁じます。
Copyright