
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
ドラグ・ショベルによる荷のつり上げは、車両系建設機械の主たる用途以外の使用として原則禁止の対象になり、実際に行えるのは例外要件を満たす場合に限られます。要件や安全措置を満たさないまま続けると、重大事故や法令違反につながりやすくなります。
・お読みいただきたい方
建設会社の経営者、役員、現場全体を管理する立場で、危ない作業を着手前に止めたい方
・リスクへの備え
現場でドラグ・ショベルに荷をつらせていないかを確認し、必要があるなら機械の種類、クレーンモード、資格、玉掛け、立入禁止、作業手順まで先に決める
・この記事で分かること
経営側が着手前に確認すべき4つの論点
事故原因をワイヤロープ不具合だけに縮めてはいけない
建設現場では、ドラグ・ショベルで資材をつり上げて移動させる作業中に、荷が外れたり振れたりして、近くにいた作業者が被災する事故があります。特に、つり荷の近くで荷を押さえる、誘導のつもりで人が寄る、掘削用の機械をそのまま荷のつり上げに使う、といった条件が重なると、重大事故につながりやすくなります。
このテーマで見落としやすいのは、事故原因を玉掛けやワイヤロープの不具合だけに絞ってしまうことです。安衛則164条が問題にしているのは、器具の不具合だけではありません。そもそもの用途外使用と、荷のつり上げを行う条件そのものです。掘削用の機械を荷のつり上げに使う。人がつり荷の近くに入る。荷を押さえながら動く。現場の判断でそのまま進める。こうした条件が重なると、ひとつの外れや揺れがそのまま重大事故につながります。
法令も、そこを分けて見ています。労働安全衛生規則第164条1項は、車両系建設機械をパワー・ショベルによる荷のつり上げなど主たる用途以外の使用に使ってはならないと定めています。その一方で、同条2項は荷のつり上げに限って限定的な例外を置いています。したがって、「全部違法」と言い切るのも雑ですし、「現場で普通にやっているから問題ない」と考えるのも危険です。正しくは、主たる用途以外の使用は原則禁止で、荷のつり上げには限定的な例外がある、という理解です。
経営側が着手前に確認すべき4つの論点
一つ目は、その機械でその作業をしてよいのかです。
ドラグ・ショベルは本来、掘削用の機械です。荷をつる作業は、主たる用途以外の使用として原則禁止され、実際に行えるのは第164条2項1号に当たる場合に限られます。例外があるから大丈夫ではありません。まず、例外に当てはまる事情が本当にあるかを確認する必要があります。
二つ目は、例外要件と、作業時の安全措置を分けて確認しているかです。
第164条2項は、用途外使用の禁止が外れるための例外要件を定めています。具体的には、荷のつり上げ作業について、作業の性質上やむを得ないとき又は安全な作業の遂行上必要なときであり、かつ、所定のつり上げ用器具を適切に取り付けて使用する場合です。これに対し、第164条3項は、そのような荷のつり上げ作業を行う際に講じるべき危険防止措置を定めており、合図者の指名、平坦な場所での作業、危険箇所への立入禁止、最大荷重の遵守、適切な玉掛用具の使用などが求められます。この二つを混ぜて理解すると、何が例外の前提条件で、何が実施時の安全措置なのかが曖昧になります。
三つ目は、クレーン機能付きなら足りると思い込んでいないかです。
ここは、法令本文と労働局資料を分けて理解した方が安全です。安衛則164条では、用途外使用の可否と、例外時の危険防止措置が問題になります。これとは別に、労働局資料では、クレーン機能付きドラグ・ショベルをクレーンモードで荷のつり上げに用いる場合、移動式クレーンとしての資格・点検・計画等も要確認事項として整理しています。したがって、164条を満たすかどうかと、クレーンモード使用時の別途の確認事項とは、分けて確認する必要があります。
そのうえで、クレーン機能付きであっても、それだけでは足りません。労働局資料では、クレーンモードで荷をつり上げる場合、つり上げ荷重に応じて移動式クレーン側の資格や玉掛け資格が問題になると整理されています。青森労働局資料には、移動式クレーン運転士、小型移動式クレーン運転技能講習、移動式クレーン運転業務特別教育、玉掛け技能講習、玉掛け特別教育の区分が示されており、石川労働局資料でも、クレーン機能付きドラグ・ショベルでの対応可能性や必要資格の整理が案内されています。少なくとも、クレーンモード使用の有無、つり上げ荷重、玉掛けの有無で必要資格が分かれる、という理解までは外せません。
四つ目は、事故後の負担を労災だけで考えていないかです。
従業員災害では、まず労災保険と、会社側に残る負担をどう埋めるかが中心論点です。もっとも、以下は一般的な確認論点です。実際にどの保険がどこまで対象になるかは、証券、約款、特約、被保険者の範囲、事故態様で変わるため、商品名だけで判断すべきではありません。安全法令の整理と保険の整理は別物なので、法令上の適否と、補償の有無や範囲は切り分けて確認する必要があります。
事故を減らす会社は、現場でなく着手前で止めています
この種の事故は、現場で「気をつけよう」と言うだけでは減りません。会社として先に線を引く必要があります。まず、ドラグ・ショベルによる荷のつり上げを安易な日常作業にしないこと。次に、荷を持ち上げる必要があるなら、移動式クレーンやクレーン機能付き機械の適正使用で代替できないかを先に検討することです。石川労働局資料も、用途外使用は制約が多く、事故が起きた場合は法違反を問われるので、他の作業方法での対応可否を十分検討するよう促しています。
さらに、クレーン機能付き機械を使う場合でも、クレーンモードへの切替えだけで済ませず、つり上げ荷重、必要資格、玉掛け、合図、立入管理まで一体で決める必要があります。加えて、労働局資料では、クレーン機能付き機械の使用時に、移動式クレーンとしての計画等も要確認事項として整理しています。ここは164条の例外要件や3項措置とは別レイヤーです。現場で使える機械かではなく、その作業に合った機械かで判断しないと、同じ事故を繰り返します。
保険の見方は、短く切り分けた方が安全です。今回のような従業員災害では、まず労災保険を土台に見て、そのうえで会社側に残る負担をどう考えるかが基本になります。任意労災や使用者賠償責任補償を検討する場合も、一般論だけでなく、実際の証券、約款、特約、被保険者の範囲まで確認しておく必要があります。
主な出典
厚生労働省「労働安全衛生規則」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0
青森労働局「クレーン機能付きドラグ・ショベルによる荷のつり上げ作業は、クレーンモードで!!」
https://jsite.mhlw.go.jp/aomori-roudoukyoku/content/contents/000653021.pdf
石川労働局「車両系建設機械による危険防止対策について」
https://jsite.mhlw.go.jp/ishikawa-roudoukyoku/content/contents/002129615.pdf
よくある質問(FAQ)
A. 一律に違法とは言えません。車両系建設機械の主たる用途以外の使用は原則禁止ですが、荷のつり上げには限定的な例外があります。たとえば、作業の性質上やむを得ないとき又は安全な作業の遂行上必要なときで、所定のつり上げ用器具を適切に取り付けて使用する場合です。ただし、その例外要件と安全措置を満たさなければなりません。
A. それも不正確です。クレーン機能付きであっても、クレーンモードへの切替え、つり上げ荷重に応じた運転資格、玉掛け資格、必要な計画、合図、立入管理まで含めて整っているかで判断します。少なくとも、クレーンモード使用の有無、つり上げ荷重、玉掛けの有無で必要資格が分かれる、という理解は必要です。
A. そうは言えません。従業員災害では、まず労災保険と会社側に残る負担への備えが中心になります。しかも、実際にどの保険がどこまで対象になるかは、証券、約款、特約、被保険者の範囲、事故態様で変わるため、商品名だけで判断すべきではありません。これは一般論なので、最終的には個別契約の確認が必要です。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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