
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント
中東情勢が悪化すると、原油価格だけでなく、石油化学の基礎原料であるナフサの調達や価格にも影響が出やすくなります。ナフサはプラスチック、合成樹脂、塗料、接着剤、断熱材、塩ビ製品などの原料につながるため、建設・住宅分野では材料費と工事費の両方に波及しやすいです。日本は石油・ナフサの供給面で中東の影響を受けやすく、情勢悪化が長引くと、見積の前提、材料確保、工期、粗利管理まで見直しが必要になります。もっとも、直ちにすべての資材が一斉に値上がりしたり供給不足になったりするわけではありません。在庫、代替調達、メーカー改定時期により、波及の時期と強さには差があります。
・お読みいただきたい方
建設会社、リフォーム会社、設備工事会社、内装工事会社、防水・塗装工事会社などで、見積作成、資材調達、原価管理、工期管理に関わる方。経営者の方はもちろん、積算、購買、現場管理、営業管理の担当者の方。
・リスクへの備え
塗料、接着剤・シーリング材、ウレタン系断熱材、塩ビ製品など、石油化学由来原料との結びつきが強い製品は、原料価格、輸送費、メーカーのエネルギーコスト、容器・包装コストなどの影響を受けやすい資材です。もっとも、影響の出方は製品仕様、在庫、メーカー改定時期、代替調達の可否によって異なります。単価の見直しだけでなく、見積有効期限、請負代金の変更方法、代替材の選定、先行発注の判断基準まで社内ルール化しておく必要があります。
・この記事で分かること
5つの実務対応と、建設資材に波及しうる仕組み。
※本稿は2026年4月時点で公表されている資料をもとに、一般的な波及構造と実務対応を整理したものです。
なぜ中東情勢が建設業に効くのか
建設業の現場では、中東情勢と聞くと、まずガソリン代や軽油代を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん燃料価格は重要ですが、実際にはそれだけではありません。より見落とされやすいのが、石油化学原料への波及です。
原油は精製の過程でガソリンや灯油だけでなく、ナフサも生みます。このナフサは、分解されてエチレンなどの基礎化学品となり、そこからプラスチック、合成繊維、ゴム、洗剤、包装材、各種樹脂製品へ広くつながっていきます。国際エネルギー機関は、石油化学原料がプラスチック、包装材、衣類、タイヤ、洗剤など幅広い製品の基盤になっていると整理しています。
日本の経済産業省も、ナフサは原油を精製してつくられる石油製品の一種であり、エチレン等の基礎化学品に分解された後、プラスチック製品等の生産につながると説明しています。さらに、経済産業省の資料によると、2024年のナフサ調達元は、中東44.6%、国産39.4%、その他輸入16.0%です。日本はナフサ供給面で中東の影響を受けやすい構造にあります。
つまり、中東情勢が悪化すると、建設業では「燃料」だけでなく「資材の原料」にも波及しうるのです。
影響が出やすい建設・住宅資材
塗料は、石油化学由来成分に加え、容器や物流コストの影響も受けやすい資材です。樹脂、溶剤、添加剤、顔料などで構成され、このうち樹脂や溶剤など石油化学由来の比率が高いものは、中東情勢による原料高の影響を受けやすくなります。さらに、塗料は缶や容器、輸送の影響も受けるため、原料高だけでなく物流費上昇も価格転嫁の要因になります。塗装工事では、材料費そのものに加えて、再見積や追加発注時の単価差が粗利を削りやすい点にも注意が必要です。
接着剤・シーリング材は、副資材として見落としやすく、粗利毀損につながりやすい代表例です。樹脂系材料との結びつきが強く、石油化学原料の影響を受けやすい一方、現場では「少量多品種」で使うことが多いため、品番ごとの値上げに気づくのが遅れやすい点が実務上の落とし穴です。見積時の想定単価と、着工時の実勢価格がずれると、案件単位では利益が残っていても、細かい副資材の積み上がりで粗利が崩れやすくなります。
防水材は、主材だけでなく関連する副資材まで連動しやすい点に注意が必要です。ウレタン、シート、防水用接着材、プライマーなど、樹脂・化学品由来の材料を多く含み、特に改修工事や屋上防水では、下地処理材やシーリング材まで連動して上がることがあります。材料一式で見たときの影響は小さくありません。部分補修より全面改修の方が影響額は見えやすい一方、小規模修繕の方が単価調整がしづらく、値上げを飲み込みやすい傾向があります。
断熱材は、製品によって原料依存度や代替性に差があります。発泡系、ウレタン系、樹脂系の製品は、石油化学原料との関係が深い資材です。日本ウレタン工業協会によると、硬質ウレタンフォームは住宅・建築用断熱材として広く利用されています。断熱改修や新築住宅では、省エネ基準や快適性の観点から断熱材の重要性が高まっているため、価格上昇が出た場合、単にコスト増というだけでなく、仕様見直しや工程見直しの論点にもなります。
配管(塩ビ管)は、上流の説明がしやすく、伝わりやすい代表例です。塩ビ工業・環境協会によると、塩ビ樹脂は石油化学由来のエチレンと、ソーダ工業由来の塩素から生産されます。上流にはナフサを主原料とする石油化学工業があり、その先に建設・土木資材としての塩ビ製品があります。したがって、原油・ナフサ・石油化学の動きは、配管資材にも波及しやすい構造です。設備工事、改修工事、戸建て・集合住宅の水回り工事では、塩ビ管や継手の価格・納期の変化を軽視できません。
建設会社の利益を削るのは、材料費だけではない
ここで重要なのは、値上がりの影響は材料単価だけで終わらないことです。
第一に、燃料高による輸送費上昇です。ホルムズ海峡は世界の石油輸送における重要な要衝であり、米EIAによると、2024年には世界の石油液体消費量の約2割に相当する量がこの海峡を通過したとしています。ここに緊張が高まると、原油そのものだけでなく、海上輸送や国内物流のコストにも不安定さが出やすくなります。
第二に、メーカー側の製造コストです。塗料、樹脂、プラスチック、化学品は、原料だけでなく製造工程でもエネルギーを使います。つまり、原料高とエネルギー高の二重の圧力を受けやすい分野です。
第三に、見積と着工のタイムラグです。建設業は、見積提出から契約、発注、施工開始まで一定の時間差があります。この間に資材価格が変動すると、受注時には取れていたはずの利益が、施工時には消えていることがあります。特に元請との価格交渉が弱い会社ほど、この影響をそのまま抱え込みやすくなります。
今すぐ見直したい実務対応としては、見積の有効期限を短くすること、価格高騰時の請負代金の変更方法を契約前に明記すること、代替材の選択肢を事前に持つこと、先行発注の判断基準を作ること、元請・施主への説明トークを準備することが重要です。制度実務に即して言えば、主要資材については、価格高騰のおそれを認識した段階で注文者に早めに通知できる運用まで含めて整えておくべきです。
リフォーム会社や設備工事会社は、単価調整をしづらいまま着工しやすく、塩ビ管、継手、接着剤、シーリング材、断熱材など石油化学系の副資材が多いため、案件単価のわりに材料の値動きの影響を受けやすい傾向があります。住宅系は施主との距離が近いぶん、価格改定の説明を避けたい心理が働きやすく、結果として会社側が吸収してしまうケースも少なくありません。こうした局面ほど、見積条件と説明文の整備が重要になります。
直ちにすべての資材が一律に上がる局面とは限りませんが、見積前提が崩れたときに利益を守れるかどうかは、事前のルール整備で差がつきます。相場観より先に、契約・購買・説明の型を整えておくことが重要です。
参考
・The Future of Petrochemicals - IEA
https://www.iea.org/reports/the-future-of-petrochemicals
・Amid regional conflict, the Strait of Hormuz remains critical for oil flows - U.S. EIA
https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=65504
・ナフサについて - 経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/material_industry/pdf/260326.pdf
・石油化学用原料ナフサ - 石油化学工業協会
https://www.jpca.or.jp/statistics/annual/nafusa.html
・石油化学製品はこうしてつくる - 石油化学工業協会
https://www.jpca.or.jp/studies/junior/howto.html
・塩ビ工業の概観 - 塩ビ工業・環境協会
https://www.vec.gr.jp/enbi/enbi1_1.html
・価格転嫁 - 第三次・担い手3法|国土交通省
https://ninaite-sanpo.mlit.go.jp/pricing/
・主要建設資材需給・価格動向調査 - 国土交通省
https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-kgyo-2_tk_000012.html
よくある質問(FAQ)
そうとは限りません。原料価格、在庫、メーカーの値決め時期、物流事情、中東以外からの代替調達の可否、製品ごとの原料構成によって、波及時期と影響の強さは異なります。ただし、塗料、樹脂系副資材、塩ビ製品などは影響を受けやすいため、案件ごとの主要資材だけでも先に確認しておく方が安全です。
実務上は、価格そのものより、納期遅延と見積前提の崩れが怖いです。材料が来ない、想定単価で手配できない、代替材への変更で再調整が必要になる、といった形で現場が乱れやすくなります。
あります。まずは、見積有効期限の明記、主要資材の再確認、価格高騰時の説明文テンプレート整備、この3つからで十分です。全社ルールが難しければ、影響の大きい案件だけでも運用を始めるべきです。
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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