健康診断後に会社が行う8つの実務

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健診日から原則3か月以内に医師意見へつなぐ

健康診断後に会社が行う8つの実務

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:健康診断は実施して終わりではありません。異常の所見がある労働者については、医師等の意見を聴き、必要に応じて作業転換や労働時間短縮などの事後措置までつなげる必要があります。

    ・お読みいただきたい方:健康診断は毎年実施しているものの、有所見者への対応、再検査の確認、就業上の措置を誰が管理するか決まっていない建設会社の経営者・管理担当者

    ・リスクへの備え:未受診者の受診完了、結果通知・記録、医師への意見聴取、就業上の措置までを一連の手順として管理し、健康情報を取り扱う担当者と共有範囲も社内で定めます。

    ・この記事で分かること:健康診断後に会社が確認したい8つの実務と、医師等の意見聴取で押さえる原则3か月以内の期限

  • 健診後は8つの処理を止めない

    9月は厚生労働省の「職場の健康診断実施強化月間」です。2026年も、一般健康診断の実施だけでなく、医師からの意見聴取、必要な事後措置、結果記録の保存などが重点事項とされています。厚生労働省は、健康診断の実施、有所見者に対する医師からの意見聴取、その意見を勘案した必要な事後措置の徹底を求めています。

    たとえば、健康診断は毎年実施していても、結果を本人へ渡した後は各社員に任せているA社を想定します。この状態では、「健診を受けたか」は確認できても、「異常の所見がある労働者について会社が必要な対応をしたか」までは確認できません。

    会社側では、次の8つを一連の流れとして管理することが重要です。なお、以下には法令上の義務と、厚生労働省の指針等に基づく実務上の対応が含まれます。

    ・法定健康診断の対象者と未受診者を確認し、対象者について受診完了まで管理する

    ・健診結果を本人へ遅滞なく通知する

    ・健康診断個人票を作成し、一般健康診断については5年間保存する

    ・異常の所見がある労働者について、医師等の意見聴取を期限内に行う

    ・医師等の意見を踏まえ、必要に応じて就業場所の変更、作業転換、労働時間短縮、深夜業の回数減少などを検討する

    ・再検査や精密検査が必要な労働者には、指針に沿って受診を勧奨し、受診しやすい勤務上の運用を検討する

    ・健康診断結果を取り扱う担当者、その権限、取り扱う情報の範囲を社内規程で定める

    ・産業医の選任義務がない小規模事業場では、地域産業保健センターなど外部の産業保健資源の活用を検討する

    法定健康診断について、事業者には対象となる労働者に健康診断を実施する義務があり、労働者にも原則として受診義務があります。案内しただけで終えず、未受診者を把握し、受診完了まで追う運用が必要です。

    労働者が会社指定の医師による健康診断を希望しない場合でも、法定健診に相当する健康診断を他の医師等から受け、その結果を証明する書面を会社へ提出する方法があります。

    また、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断(特定業務従事者の定期健康診断を含む)の結果を、電子申請で所轄労働基準監督署長へ報告する必要があります。会社全体の人数だけで判断せず、事業場単位で対象を確認します。

  • 医師の意見は速やかに 原則3か月以内

    健康診断の法定項目に異常の所見があると診断された場合、会社が本人へ「病院へ行ってください」と伝えるだけでは、労働安全衛生法上の事後措置としては別の手続きが残ります。

    結果票には「要再検査」「要精密検査」「要治療」などと記載される場合がありますが、判定表記は健診機関によって異なります。法令上、医師等の意見聴取の対象となる基準は、健康診断の項目に「異常の所見があると診断された労働者」です。

    労働安全衛生法第66条の4では、その労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師または歯科医師の意見を聴くことを事業者に求めています。

    法定の健康診断では、一般健康診断・特殊健康診断のいずれも、原則として健康診断が行われた日から3か月以内に医師等の意見を聴きます。ただし、労働者が会社指定医以外で法定健診に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を会社へ提出した場合は、その書面が提出された日から3か月以内です。

    3か月は「そこまで待ってよい」という意味ではありません。厚生労働省の指針では、医師等からの意見聴取は速やかに行うことが望ましいとされています。

    医師等から聴くのは、単に「病気かどうか」ではありません。通常勤務でよいのか、勤務に一定の制限が必要なのか、休業が必要なのかといった就業上の判断です。会社はその意見を勘案し、労働者本人の実情も考慮したうえで、必要があれば労働時間の短縮、作業転換、就業場所の変更、深夜業の回数減少などを検討します。

    建設業では、高所作業、車両・重機の運転、重量物の取扱い、夜間作業などがあります。医師等へ実際の作業内容、労働時間、作業負荷など必要な情報を伝え、どのような就業上の措置が必要か確認することが重要です。

    有所見だから直ちに現場から外すわけではありません。反対に、「本人が大丈夫と言っている」だけで通常勤務を続ければよいとも限りません。医師等の意見を踏まえ、会社が必要な措置を判断する手順を外さないことが重要です。

    一般健康診断後の再検査や精密検査は、すべての場合に事業者へ実施義務が課されているわけではありません。厚生労働省の指針では、必要な労働者へ受診を勧奨し、その結果を意見聴取を行う医師等へ提出するよう働きかけることが適当とされています。一方、有機溶剤、鉛、特定化学物質、高気圧作業、石綿など、一部の特殊健康診断では法令上再検査等の実施が義務付けられる場合があります。一般健康診断と一律に扱わないことが必要です。

    再検査を受けやすくするために、日程調整や外出ルールなど勤務上の運用を決めておく方法もあります。ただし、一般健康診断後の再検査を一律に勤務時間扱いや有給扱いにしなければならないというルールではありません。就業規則や社内制度との整合を確認して決めます。

  • 小規模事業場も仕組みを作る

    産業医の選任義務がない事業場でも、異常の所見がある労働者について必要な医師等の意見聴取を行わなくてよいわけではありません。

    厚生労働省の指針では、産業医の選任義務がない事業場について、労働者の健康管理等に必要な医学的知識を有する医師等から意見を聴くことが適当とされ、その方法として地域産業保健センターの活用も示されています。

    健康診断結果の扱いにも注意が必要です。健康情報は、社長、上司、現場責任者、人事担当者であれば自由に閲覧してよい情報ではありません。厚生労働省の指針では、心身の状態に関する情報について取扱規程を定め、情報を取り扱う者、その権限、取り扱う情報の範囲などを定めることが示されています。

    特に、現場責任者など産業保健業務従事者以外へ情報を共有する場合は、就業上の措置に必要な範囲へ情報を絞ることが重要です。健診結果そのものを渡すのではなく、「当面は夜間勤務を避ける」「高所作業を制限する」といった業務上必要な情報に整理します。

    厚生労働省の健診後措置指針では、産業保健業務従事者以外の者に取り扱わせる健康情報は就業上の措置を実施する上で必要最小限とし、必要に応じて内容を適切に加工したうえで提供すること、診断名、検査値、具体的な愁訴の内容など加工前の情報や詳細な医学的情報は取り扱わせてはならないことが示されています。

    「熱中症対策の「体制・手順」義務化で建設現場が直すこと」で整理したように、健康リスクへの対応も、問題が起きてから担当者が判断するのではなく、連絡先、判断者、対応手順を事前に決めておくほうが運用しやすくなります。

    健康診断後の医師意見聴取、再検査への勤務上の配慮、代替人員の確保などに伴う費用は、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。就業制限に伴う代替人員費、工期調整の追加費用、売上減少、行政対応費なども、当然に保険で対応できる費用とは限りません。補償対象は契約内容、特約、事故状況等によって異なるため、別途確認が必要です。

    従業員の健康状態に関連して労災事故等が発生し、会社の法律上の損害賠償責任が問題となった場合も、使用者賠償責任補償などの対象可否は個別の契約内容、特約、事故状況等によって判断されます。保険の確認と並行して、会社として健診後の管理手順を止めないことが重要です。

    執筆者の意見

    この3か月以内の意見聴取ルールは、健康診断結果を保管して終わりではなく、必要な就業判断まで期限管理することを意味します。

    実務上は、健診日、結果受領日、医師意見聴取日、措置決定日、措置実施日、次回見直し日までを一つの管理表で追える状態が問われます。再検査の予約確認だけで終わらず、医師の意見を聴いたか、必要な就業措置を実施したかまで管理することが重要です。

    弊社は、建設業では高所作業や車両・重機運転など健康状態が安全面に影響し得る仕事があるため、医学情報を現場へ広く共有するのではなく、業務上必要な就業制限に整理して、必要な範囲の担当者へ伝える運用が重要だと考えます。


    前田朗伸(まえだ あきのぶ)

    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)

    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定

    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。

    あわせて確認しておきたい記事

    「建設業の墜落防止は段取りで決まる」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-28/

    「高所作業車事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-30/

    「スレート屋根の踏み抜き事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-37/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1.健康診断で有所見となった社員は、全員現場から外す必要がありますか?

    いいえ。有所見であることだけを理由に、一律に現場作業を禁止する仕組みではありません。会社は医師等から就業上必要な措置について意見を聴き、その意見と本人の実情を踏まえて、通常勤務、就業制限、休業など必要な対応を判断します。

    Q2.社員が再検査を受けてくれない場合、会社の責任になりますか?

    再検査を受けなかったという事実だけで、直ちに会社の法的責任が決まるわけではありません。

    一般健康診断後の再検査・精密検査は、すべての場合に事業者へ実施義務が課されているわけではありません。一方、異常の所見がある労働者について医師等の意見を聴き、必要な事後措置を検討することは別の義務です。

    再検査未受診を理由に、医師等の意見聴取や必要な事後措置の検討を止めないことが重要です。必要な労働者への受診勧奨や、受診しやすい勤務上の配慮も検討します。なお、一部の特殊健康診断では、再検査等が法令上義務付けられている場合があります。

    Q3.産業医がいない従業員50人未満の会社は、誰に医師の意見を求めればよいですか?

    産業医の選任義務がない事業場でも、異常の所見がある労働者について必要な医師等の意見聴取を行う必要があります。

    厚生労働省の指針では、必要な医学的知識を有する医師等から意見を聴くことが適当とされ、地域産業保健センターの活用も示されています。具体的な利用対象や申込方法は、管轄する地域産業保健センター等へ確認してください。

    参考

    厚生労働省『「職場の健康診断実施強化月間」(9月)について』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75713.html

    厚生労働省『労働安全衛生法』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74001000&dataType=0

    厚生労働省『労働安全衛生規則』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0

    厚生労働省『健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/kouji/K170417K0020.pdf

    厚生労働省『労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/content/000922318.pdf

    最終確認日
    2026年09月10日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

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