吹付け停止後、残圧で転倒寸前

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止めた後まで作業手順に入れる

吹付け停止後、残圧で転倒寸前

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント:吹付け作業は、停止した瞬間に危険がなくなるわけではありません。ホースやノズル内に残った空気圧による反動にも注意が必要です。

    ・お読みいただきたい方:吹付け工事、塗装工事、防水工事などを行う建設会社の経営者、安全管理を担当する方

    ・リスクへの備え:作業開始時だけでなく、停止・中断・再開時の残圧確認、ノズル保持、作業姿勢まで手順として決めておくことが重要です。

    ・この記事で分かること:残圧による事故を防ぐ4つの確認と、事故時に確認したい補償3区分

  • 事故は「停止後」に起きかけた

    厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」には、建設業の吹付け作業に関するヒヤリ・ハット事例が掲載されています。

    建屋の屋上で吹付け作業を行っていたところ、作業を停止した際、残圧によって吹付けホースが跳ね、その反動で作業者が体勢を崩し、転倒しそうになりました。

    事故は吹付け中ではなく、作業を一時停止した際に起きかけています。

    厚生労働省は原因として、吹付け作業を停止しても、塗装ノズルや吹付けホース内に空気圧が残っていることへの注意が十分でなかったことを挙げています。対策として、吹付け機が完全に停止し、ホース内の空気圧が低下するまで塗装ノズルをしっかり握り、作業時の体勢を保持することを示しています。

    ここで区別しておきたい点があります。

    公表されているのは「転倒しそうになった」というヒヤリ・ハットであり、実際に負傷した事例ではありません。また、屋上端部との距離や高さは公表されていません。そのため、この事例を「屋上から墜落しかけた事故」と断定することはできません。

    一方、ホースの反動で体勢を崩すという現象そのものは、作業場所によっては転倒だけでなく墜落につながる可能性があります。屋上という場所だけを見るのではなく、「作業者の姿勢を突然崩す要因が残っていないか」という視点で見る必要があります。

  • 残圧を作業停止手順に組み込む

    この事例から見直したいのは、吹付け作業そのものの方法だけではありません。

    「停止したから安全」と判断しないことが重要です。停止・中断・再開までを一つの作業手順として決めておくことが重要です。

    現場では、少なくとも次の4点を確認しておきたいところです。

    ・吹付け停止後、機械が完全に停止してホース内の空気圧が低下するまで、ノズルを確実に保持できる手順

    ・使用機器の取扱説明書等に基づく、残圧の確認方法や圧力を抜く方法

    ・ホース、ノズル、接続部の状態と、反動を受けても体勢を崩しにくいホースの取り回し

    ・高所で作業する場合の作業床、端部・開口部、墜落防止措置の確認

    労働安全衛生規則では、高さ2メートル以上の箇所で、墜落により労働者に危険を及ぼすおそれがある場合には、作業床を設けることなどが定められています。また、高さ2メートル以上の作業床の端や開口部等で墜落のおそれがある箇所には、囲い、手すり、覆い等が原則として必要です。

    作業床を設けることが困難な場合や、作業床の端・開口部等で囲い等を設けることが著しく困難な場合、作業の必要上臨時に囲い等を取り外す場合などには、防網を張り、要求性能墜落制止用器具を使用させる等の墜落防止措置が定められています。

    ただし、これは「屋上であれば一律に同じ措置が必要」という意味ではありません。作業箇所の高さ、端部や開口部の有無、墜落の危険など、実際の作業条件に応じて適用を確認する必要があります。このヒヤリ・ハット事例についても、掲載情報だけから労働安全衛生規則違反の有無を判断することはできません。

  • 事故後は作業者と損害を分けて確認

    実際に作業者が負傷した場合は、まず被災者が従業員なのか、一人親方等なのかを確認します。

    労働者が事業主の支配・管理下で業務に従事している際に、業務が原因となって負傷した場合は、業務災害として労災保険給付の対象となり得ます。最終的な支給・不支給は事故状況等を踏まえて労働基準監督署長が判断します。

    一方、一人親方や事業主など労働者に該当しない方は、通常の労働者と同じ形で当然に労災保険の対象になるわけではありません。一定の要件を満たして労災保険に特別加入しているかを確認する必要があります。

    そのうえで、任意労災について死亡、後遺障害、入院、手術、通院などの補償内容を確認します。会社が法律上の損害賠償責任を負う事故では、使用者賠償責任補償が関係する場合もあります。ただし、補償対象や支払条件は契約内容、特約、被災者の範囲、事故状況等により異なります。

    さらに、跳ねたホースやノズルによって第三者が負傷したり、第三者の財物を損壊したりした場合は、第三者賠償責任保険について、法律上の損害賠償責任や契約内容を確認することになります。

    今回の公表事例はヒヤリ・ハットであり、負傷や物損が発生したとは記載されていません。ヒヤリ・ハットだけで実際のけがや物損がなければ、通常は保険金請求の前提となる損害自体が発生していません。

    また、保険で必ずしも対象とならない費用も分けて考える必要があります。事故後の安全設備の追加や手順見直しに要する再発防止費用、工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政対応費用、ブランド毀損への対応費用などは、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。契約内容や特約、事故状況ごとの確認が必要です。

    執筆者の意見

    このヒヤリ・ハットは、危険が吹付け中だけでなく停止直後にも残ることを意味します。

    実務上は、作業開始前の点検だけでなく、停止・中断・再開までを一つの手順として決めておくことが問われます。

    弊社は、高所作業の事故防止では、墜落防止設備の確認だけでなく、ホースの残圧や反動など作業姿勢を崩す要因まで洗い出すことが重要だと考えます。

    また、万一のけがに備え、作業者の雇用区分と労災保険、特別加入、任意労災の対象範囲を事前に照合しておくことも欠かせません。


    前田朗伸(まえだ あきのぶ)

    株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)

    損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定

    建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。

    あわせて確認しておきたい記事

    「建設業の墜落防止は段取りで決まる」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-28/

    「スレート屋根の踏み抜き事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-37/

    「高所作業車事故と会社の備え」
    https://www.e-kojihoken.com/basic/column/post-30/

  • よくある質問(FAQ)

    Q1 吹付け作業を停止すれば、ホースは安全ですか?

    いいえ。今回の厚生労働省の事例では、吹付けを停止した後もノズルやホース内に空気圧が残り、ホースが跳ねたことがヒヤリ・ハットにつながっています。機器が完全に停止し、ホース内の空気圧が低下するまでの取扱いを作業手順に含めることが重要です。

    Q2 屋上で吹付け作業をするときは、必ず墜落制止用器具が必要ですか?

    屋上作業というだけで一律に判断することはできません。労働安全衛生規則では、高さ2メートル以上で、墜落により危険を及ぼすおそれがある場合の作業床や、作業床の端・開口部等における墜落防止措置が定められています。作業場所の高さや形状、囲い・手すり等の状況に応じて確認が必要です。今回の公表事例には屋上の高さや端部との距離が記載されていないため、この事例だけから法令違反があったとは判断できません。

    Q3 実際に作業者がけがをした場合、労災と任意労災の両方を確認しますか?

    確認が必要です。従業員の業務災害であれば労災保険給付の対象となり得ます。一人親方等の場合は労災保険の特別加入状況も確認します。任意労災や使用者賠償責任補償については、被保険者の範囲、補償項目、支払限度額、免責金額、特約などを確認します。実際の支払可否は契約内容や事故状況等により異なります。

    参考

    厚生労働省 職場のあんぜんサイト『吹付け作業を一時停止した際、体勢を崩し転倒しそうになった』(2026年9月閲覧)
    https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/hiy_0354.html

    厚生労働省『労働安全衛生規則 第518条・第519条等』(2026年9月閲覧)
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=74003000&dataType=0&pageNo=9

    東京労働局『業務災害について』(2026年9月閲覧)
    https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/ro-gyoum.html

    厚生労働省『8-1 特別加入制度とは何ですか。』(2026年9月閲覧)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000166851.html

    最終確認日
    2026年09月10日

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認日 :2026年6月9日

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