
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:脚立上でボードなどの資材を持つ作業は、両手が使えず、姿勢の崩れがそのまま墜落・転落につながります。脚立の点検だけでなく、資材の受渡しを含めて作業方法を組み替えることが重要です。
・お読みいただきたい方:内装、設備、電気、改修工事などで脚立を日常的に使用する現場責任者
・リスクへの備え:作業前に「脚立を使う理由」「資材を持ったまま昇降・作業しない段取り」を確認し、必要に応じて補助者による受渡し、可搬式作業台・移動式足場への変更を行うこと
・この記事で分かること:脚立作業で転落リスクを下げる3つの現場確認
「少しだけ」の脚立作業で起きるヒヤリハット
厚生労働省のヒヤリ・ハット事例には、建物内で脚立を使用し、内装ボードを張る作業中に脚立から落ちそうになった事例が掲載されています。本記事では、特定の現場や人物を示さない一般化した事例として扱います。
たとえば、脚立の上で片手または両手にボードを持ち、壁や天井方向へ体を伸ばす場面です。資材の重量そのものが大きくなくても、視線が作業箇所へ向き、足元の確認が遅れます。踏ざんから足が外れる、横方向へ手を伸ばして重心が外へ出る、資材が壁や天井材に当たって姿勢を崩す、といった連鎖が起こり得ます。
脚立は短時間作業に使われやすい一方、墜落・転落時には骨折などの重い負傷につながることがあります。現場責任者は、作業員の注意力だけに任せず、資材を扱う工程まで含めて危険を評価する必要があります。
確認すべきは脚立ではなく作業の組み立て
転落防止の出発点は、「脚立を正しく置いたか」だけでは足りません。作業高さ、資材の大きさ、必要な姿勢、第三者の動線を見て、より安全な方法へ置き換えられるかを先に検討します。
作業床が広い可搬式作業台や移動式足場を使えるなら、脚立作業より安定した姿勢を確保しやすくなります。脚立を使う場合でも、ボードや工具を持ったまま昇降しない段取りとし、必要に応じて補助者が正対して受け渡す、または作業台・移動式足場へ変更します。厚生労働省・東京労働局の安全資料でも、荷物を持たない昇降、3点支持、無理な姿勢を避けること、脚立・はしごより安全な設備への変更を先に検討することが示されています。
・設置場所に段差、開口部、濡れ、障害物がないか
・天板やメーカーが作業を想定していない上段を、作業位置として使う前提になっていないか
・資材の受渡し、取付け、移動を一人で完結させる段取りになっていないか
・脚立の脚部、開き止め、踏ざん、滑り止めに損傷や汚れがないか
・作業中に人や資材が接触する動線になっていないか
「高所作業の資材落下事故と建設業の賠償リスク」も、資材を扱う作業の役割分担を見直す際の参考になります。
事故後に確認する保険と自己負担
脚立からの転落で従業員が負傷した場合、労災保険の適用関係をまず確認します。そのうえで、任意労災に付帯する死亡・後遺障害・入院・手術・通院補償や、使用者賠償責任補償の対象となり得るかを、契約内容、特約、事故状況に照らして確認します。
ただし、工期遅延に伴う追加費用、代替要員の確保費用、売上減少、行政処分への対応費用、信用・ブランド毀損への対応費用は、任意労災や使用者賠償責任補償で当然に対象となるものではありません。補償対象、支払限度額、免責金額、被保険者の範囲は契約ごとに異なるため、事故前に証券単位で確認が必要です。
転落時にボードなどの資材が第三者や他の作業員に当たり、対人・対物事故となった場合は、第三者賠償責任保険の補償対象となる可能性もあります。ただし、法律上の損害賠償責任の有無、受託物の扱い、契約内容や事故状況によって取扱いは異なります。
このヒヤリハットは、脚立の不具合だけでなく、資材を持つ作業者の姿勢と受渡し方法が墜落・転落リスクを左右することを意味します。実務上は、危険予知を朝礼で行うだけで終えず、誰が資材を渡し、誰が固定し、どの位置で脚立を移動するかまで決めることが問われます。弊社は、脚立作業を「一人で短時間に終える作業」と見なさず、資材の大きさと作業高さに応じて作業台・補助者・保険契約をセットで確認することが、現場責任者に欠かせないと考えます。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
あわせて確認しておきたい記事
「建設業の墜落防止は段取りで決まる」
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「高所作業車事故と会社の備え」
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よくある質問(FAQ)
A1. 問題ないとはいえません。脚立の状態が良好でも、資材を持つことで両手が使えず、重心が外へ出やすくなります。資材の受渡しや、作業台・移動式足場への変更を検討してください。
A2. 一律に不要とは判断できません。厚生労働省・東京労働局の安全資料では、高さ1m未満で脚立やはしごを使用する場合も、墜落時保護用ヘルメットの着用が呼びかけられています。法令上の要否は作業場所・作業内容によって確認しつつ、現場の安全衛生計画に沿って着用を判断してください。
A3. 労災保険の適用関係を確認したうえで、任意労災の補償対象となる可能性があります。ただし、補償の有無や金額は、契約内容、特約、被保険者の範囲、事故状況により異なります。工期遅延費用や売上減少まで当然に対象となるものではありません。
参考
厚生労働省 職場のあんぜんサイト『ヒヤリ・ハット事例(墜落・転落)』(2026年8月閲覧)
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/hiyari/01.html
厚生労働省『脚立・可搬式作業台』(2026年8月閲覧)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/formwork1_stepladder_jp.pdf
厚生労働省 東京労働局『はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!』(2026年8月閲覧)
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/002150049.pdf
最終確認日
2026年08月05日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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