
30秒でわかる要点まとめ
・ポイント:建設工事の請負契約は、所定の要件を満たせば電磁的措置による締結が可能ですが、単にPDFを送るだけでは実務上の備えとして不十分です。
・お読みいただきたい方:電子契約サービスの導入を検討している建設会社の経営者、管理部門責任者、工事契約の承認者。
・リスクへの備え:案件ごと、または包括承諾の対象範囲が分かる形で、事前承諾、電子契約サービス名、ファイル形式、保存場所、改ざん確認方法、本人確認方法を社内フローに落とし込むことです。
・この記事で分かること:建設工事の電子契約で確認したい5つの実務注意点です。
電子契約でも契約内容の確認は省略できない
建設工事の請負契約では、契約締結時に建設業法第19条第1項で定められた事項を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することが基本です。契約内容を変更する場合も、同条第2項により変更内容を書面に記載し、署名または記名押印をして相互に交付することが求められます。電磁的措置は、同条第3項に基づき、この書面交付に代えて使える方法ですが、契約内容の整理そのものを簡略化する制度ではありません。
つまり、電子契約にしたからといって、工事内容、請負代金、工期、支払条件、変更・解除、損害負担などの確認を省いてよいわけではありません。紙の契約書を電子化するだけでなく、誰が確認し、誰が承認し、どの段階で締結するのかを明確にする必要があります。
特に注意したいのは、見積書、注文書、注文請書、約款、仕様書、図面、工程表などが別々に動いている場合です。電子契約サービス上で締結した文書だけを見ても、契約全体が分からない状態では、後から「どの条件で合意したのか」が争点になり得ます。「標準約款改正と契約書見直し」で整理した契約内容の確認と同じく、電子契約でも合意内容の一体管理が必要です。
電子契約は、押印や郵送の手間を減らせる一方で、社内確認が甘いまま締結まで進みやすい面があります。経営者が見るべき点は、電子契約サービスを導入したかどうかではなく、契約締結前の確認手順が紙の契約時より弱くなっていないかです。
事前承諾・保存・改ざん防止を先に決める
国土交通省のガイドラインでは、電子契約に際して、あらかじめ電磁的措置の種類と内容を示したうえで、相手方から書面または電磁的方法による事前承諾を得る必要があると整理されています。ここでいう事前承諾は、電子契約サービスを使うことへの同意だけでなく、どのような方法で契約事項を記録するのかを相手方に示すことが前提です。
たとえば、利用する電子契約サービスの名称、契約書データの形式、閲覧に必要なソフトウェア、電子署名やタイムスタンプの形式、契約成立後のデータ保存方法を、社内の契約フローに組み込む必要があります。相手方がデータを出力して書面を作成できること、契約事項が速やかに確認できること、必要なときに検索・提示できることも重要です。
実務上は、次の順番で確認すると漏れを減らせます。
・電子契約を使う案件かどうかを契約前に判定する
・相手方に電子契約サービス名、記録方式、ファイル形式を示す
・案件ごと、または包括承諾の対象範囲が分かる形で、相手方から事前承諾を取得し、承諾記録を保存する
・契約締結後、契約書データ、署名情報、タイムスタンプ、操作ログを保存する
・変更契約や追加工事も同じフローで処理する
電子契約では、契約書データがクラウド上にあるだけで安心してはいけません。サービスの利用契約が終了した場合、担当者が退職した場合、アカウント権限が変わった場合でも、必要な契約データを自社で確認できる状態にしておく必要があります。
また、建設工事の請負契約は契約金額が大きく、契約期間も長くなりやすいため、改ざんが行われていないかどうかを確認できる契約書の存在が重要です。ここでいう原本性とは、紙の原本が存在するという意味ではなく、契約書データの改変が行われていないかを確認できる状態を指します。電磁的措置の技術的基準として、法令では見読性(データを出力して書面を作成できること)・原本性(改ざんが行われていないか確認できること)・本人性(相手方が本人であると確認できること)の3要件が定められています。電子署名、タイムスタンプ、操作ログ、2要素認証などを、形式的な機能名ではなく、これら3要件と紛争時に何を証明できるのかという観点で確認することが欠かせません。
電子化で増える確認漏れと保険の限界
電子契約の導入で問題になりやすいのは、契約書の作成そのものよりも、締結権限、保存場所、変更契約、添付資料の管理です。現場担当者がメールやチャットで条件を詰め、本社が電子契約だけを後追いで承認する運用では、実際の合意内容と契約書の内容がずれるおそれがあります。
契約不備が原因で追加工事代金、工期延長、損害負担、違約金、契約解除をめぐる紛争になった場合、第三者賠償責任保険や建設工事保険で当然に解決できるものではありません。保険で確認できるのは、対人対物事故、工事目的物の損壊、受託物の損壊、法律上の損害賠償責任など、契約内容・特約・事故状況に応じた範囲です。
一方で、契約条件の確認漏れ、請負代金の未回収、工期遅延に伴う追加費用、売上減少、行政対応費用、信用低下への対応費用などは、保険で必ずしも対象となる費用ではありません。電子契約の導入時は、保険で備える話と、契約管理で防ぐ話を分けて考える必要があります。
実務上は、電子契約サービスの選定時に、契約書データの出力、検索、権限管理、操作ログ、タイムスタンプ、署名方式、退職者アカウントの扱い、保存期間、サービス解約後のデータ取得を確認しておきたいところです。電子契約は事務効率化の道具ですが、建設工事では証拠管理の仕組みでもあります。
この電子契約の実務注意点は、契約締結の入口を紙からデジタルへ変えるだけでは足りないことを意味します。実務上は、誰が承諾を取り、誰が契約内容を確認し、誰が保存状態を管理するのかが問われます。電子署名やタイムスタンプがあっても、変更契約や添付資料の管理が抜ければ、紛争時の説明力は弱くなります。弊社は、電子契約の導入はシステム選定ではなく、契約権限と保存ルールを見直す経営管理の課題だと考えます。保険確認では、契約不備そのものを保険で埋める発想ではなく、対人対物事故、工事目的物の損壊、使用者賠償責任補償など、保険事故として確認できる範囲を証券単位で分けて確認してほしいところです。

前田朗伸(まえだ あきのぶ)
株式会社イカリエージェンシー(1956年創業/AIG損保 AMA認定代理店)
損害保険トータルプランナー/AIG Executive Risk Manager(ERM)※AIG損保リスクマネジメント制度 最上位認定
建設業の労災・賠償・工事保険を専門に、実務15年以上。契約実績330社以上。
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よくある質問(FAQ)
A1. 所定の要件を満たす場合には、建設業法第19条の書面交付に代えて、電磁的措置による契約締結が可能です。ただし、電子契約サービスを使えば足りるという意味ではありません。相手方への事前説明と承諾、契約事項の記録、見読性、改ざん確認、本人確認を確認できる運用が必要です。
A2. メール送付だけで足りると考えるのは危険です。国交省ガイドラインでは、電子メール、クラウドサービス、電磁的記録媒体などが例示されていますが、契約事項等の記録、出力可能性、改ざん確認、本人確認などの技術的基準を満たす必要があります。実務上は、承諾記録と契約締結後の保存状態まで確認すべきです。
A3. 印紙の有無だけで判断するのはおすすめしません。建設工事の電子契約では、契約権限、事前承諾、保存、検索、改ざん防止、変更契約の処理まで含めて設計する必要があります。導入前に、紙の契約書より証拠管理が弱くならないかを確認することが先です。なお、印紙税の取扱いは契約方式や保存方法により確認が必要なため、最終的には税理士等の専門家にも確認してください。
参考
国土交通省『電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン』(2026年7月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001912595.pdf
国土交通省『ガイドライン・マニュアル』(2026年7月閲覧)
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk1_000002.html
法務省『電子署名法に基づく特定認証業務の認定について』(2026年7月閲覧)
https://www.moj.go.jp/MINJI/denshishomeihou.html
総務省・法務省『利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)』(令和2年9月4日、令和6年1月9日デジタル庁・法務省が一部改定)(2026年7月閲覧)
https://www.moj.go.jp/content/001327658.pdf
最終確認日
2026年07月07日
※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。
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