高齢者労災と会社の備え

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シニア雇用の安全対策

高齢者労災と会社の備え

  • 30秒でわかる要点まとめ

    ・ポイント

    2026年4月1日から、改正労働安全衛生法が施行され、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理などについて、事業者が講ずるよう努めなければならない措置が法律上の努力義務として定められます。あわせて、同法に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日公示)も適用されます。建設業では、転倒、墜落・転落、熱中症、持病悪化などを「本人の年齢の問題」で済ませず、会社の安全管理体制として扱うことが重要です。

    ・お読みいただきたい方

    60歳以上の作業員、再雇用者、協力会社の高年齢作業員が現場に入る建設会社の経営者・役員、安全衛生担当者に関係します。なお、本記事では、厚生労働省の指針に合わせて、主に60歳以上の労働者を念頭に「高年齢労働者」と表記します。

    ・リスクへの備え

    まずは、現場ごとに「段差・照明・通路・高所作業・暑熱環境・作業時間・体調確認」の7項目を確認し、高年齢労働者に負担が大きい作業を洗い出すことが現実的です。あわせて、任意労災や使用者賠償責任補償など、事故後の費用負担に備える仕組みも確認しておく必要があります。なお、努力義務は直ちに罰則が科されるものではありませんが、事故発生後の安全配慮義務(労働契約法第5条)の観点から、指針に沿った対応をしていたかどうかが民事責任の判断材料になり得ます。

    ・記事で分かること

    建設会社が確認すべき5つの実務ポイント

  • 努力義務化で何が変わるのか

    今回の改正で押さえるべき点は、高年齢者の労災防止が、事業者の安全衛生上の課題としてより明確に整理されたことです。厚生労働省は、改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」を令和8年2月10日付で公示しています。この指針は、改正法の施行日である2026年4月1日から適用されます。

    労働安全衛生法上の努力義務は、直ちに罰則が科される性質のものではありません。ただし、これとは別に、使用者には労働契約法第5条に基づく安全配慮義務があります。事故後の民事責任の場面では、会社が危険箇所を把握していたか、作業内容や配置を見直していたか、指針に沿った対応をしていたかが、判断材料の一つになる可能性があります。

    特に建設現場では、段差、仮設通路、脚立、足場、資材置き場、暑熱環境など、年齢による身体機能の低下が事故に結びつきやすい場面が多くあります。経営者が見るべきなのは、年齢だけではありません。視力、聴力、筋力、バランス感覚、疲労回復の遅れなどが、作業内容と合っているかです。

    高年齢労働者を雇用し続けること自体が問題なのではありません。問題になるのは、本人の経験に頼り、現場の環境や作業手順を変えないことです。

  • 建設現場で起きやすい高齢者労災

    建設業で特に注意したいのは、転倒、墜落・転落、熱中症、腰痛、脳・心臓疾患の悪化です。高年齢労働者は、若年層と同じ作業をしていても、つまずきへの反応、姿勢の立て直し、暑さへの自覚、疲労の蓄積に差が出ることがあります。

    厚生労働省は、令和6年の労働災害発生状況で、新型コロナウイルス感染症へのり患によるものを除いた休業4日以上の死傷者数が135,718人だったと公表しています。また、第14次労働災害防止計画のアウトカム指標に関する状況として、60歳代以上の死傷年千人率は4.00とされています。高年齢労働者の安全衛生対策は、今後も継続して取り組むべき課題です。

    たとえば、若い作業員ならまたげる程度の資材、少し暗い通路、仮置きされたコード、雨天後のぬかるみ、手すりのない階段などが、高年齢作業員には大きな事故要因になります。本人が「大丈夫」と言っていても、会社側が作業環境を点検しない理由にはなりません。

    想定例として、60代の作業員が早朝に資材を運搬していた際、通路に仮置きされたコードにつまずき、手をついた反動で骨折するケースが考えられます。原因を「本人の不注意」で終わらせるのではなく、通路の整理、照明、資材置き場、朝礼時の体調確認、作業配置まで見直すことが必要です。

    また、健康面の確認も軽視できません。ただし、持病、服薬、通院などの健康情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当し、無制限に収集・使用できる情報ではありません。安全配慮に必要な範囲に限定し、本人の同意、取扱者、記録方法、共有範囲をあらかじめ決めたうえで扱う必要があります。現場で日常的に確認すべきなのは、当日の体調、睡眠不足、ふらつき、暑さによる不調、高所作業や重量物運搬への不安の有無など、作業安全に直結する情報です。

  • 会社が先に決めておくべき実務対応

    高齢者労災対策は、現場任せにすると続きません。厚生労働省の指針では、経営トップによる方針表明、担当組織や担当者の明確化、安全衛生委員会等での調査審議、災害事例やヒヤリハットをもとにしたリスクアセスメントなどが示されています。

    建設会社では、次の7項目を社内ルールや現場点検表に落とし込むと運用しやすくなります。

    確認項目  見るべきポイント
    段差 つまずきやすい仮置き資材、コード、敷板の浮き
    照明 薄暗い通路、夕方以降の作業場所、影になる場所
    通路 幅、ぬかるみ、資材の仮置き、すれ違い時の危険
    高所作業 脚立、足場、手すり、昇降時の動線、単独作業の有無
    暑熱環境 WBGT、休憩、給水、空調服、日陰、体調不良時の退避
    作業時間 長時間作業、連続作業、早朝・夜間作業、疲労蓄積
    体調確認 睡眠不足、ふらつき、暑さによる不調、作業への不安

    現場入場前には、年齢だけでなく、作業経験、苦手作業、当日の体調、暑熱作業・高所作業・重量物運搬への不安の有無を確認します。持病、服薬、通院などの健康情報を扱う場合は、安全配慮に必要な範囲に限定し、本人の同意、取扱者、記録方法、共有範囲をあらかじめ決めておくことが重要です。

    また、高所作業、重量物運搬、単独作業、長時間作業は、高年齢労働者の配置可否を現場責任者だけで判断しない仕組みが必要です。朝礼時の声がけや体調確認も、形式的な確認で終わらせず、「ふらつき」「睡眠不足」「暑さによる不調」を申告しやすい雰囲気づくりまで含めて運用する必要があります。

    保険は事故そのものを防ぐものではありません。まずは作業環境の改善と作業管理を行い、それでも残る財務リスクへの備えとして位置づけるのが適切です。任意労災を中心に、対象となる労働者の範囲、協力会社・下請作業員の扱い、支払限度額、免責金額、争訟費用の取扱いを確認します。あわせて、労災事故により会社が法律上の損害賠償責任を負った場合に備える補償として、使用者賠償責任補償も確認しておくとよいでしょう。なお、補償名や特約名は保険会社により異なります。

    参考

    厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」について
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html

    厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00007.html

    厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況を公表」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_58198.html

    厚生労働省「高年齢者の労働災害防止のための指針」
    https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001654284.pdf

    厚生労働省「労働契約法 第5条」
    https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=73aa9536

  • よくある質問(FAQ)

    Q1. 努力義務なら、何もしなくても問題ありませんか。

    いいえ。直ちに罰則があるかどうかと、事故後に会社の安全配慮が問われるかどうかは別の問題です。高年齢労働者が働く現場で、危険箇所の確認、作業配置、体調確認、教育をまったく行っていない場合、事故の内容や会社の対応状況によっては、安全配慮義務や安全衛生管理体制が問題視される可能性があります。

    Q2. 高齢の作業員を危険作業から外せば十分ですか。

    一律に外すだけでは不十分です。本人の経験、体力、当日の体調、作業内容、現場環境を見て判断する必要があります。持病や服薬などの健康情報を扱う場合は、安全配慮に必要な範囲に限定し、本人同意や共有範囲を明確にしておくことが重要です。

    Q3. 保険で備えていれば安全対策は後回しでもよいですか。

    よくありません。任意労災や使用者賠償責任補償は、事故後の費用負担に備える手段の一つです。事故を防ぐための段差解消、照明確保、通路整理、体調確認、作業時間の調整を行ったうえで、残るリスクに備えるものとして考える必要があります。

    ※本記事は、2026年5月時点の厚生労働省公表情報をもとに作成しています。

    ※本コラムに掲載している図解は、一般的な仕組みや考え方をわかりやすく説明することを目的としたイメージ図です。具体的な補償範囲、支払可否、条件等は各契約内容および事故状況等により異なります。

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承認番号:26G021
承認日 :2026年6月9日

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